従業員の業務上横領に対する会社側の対応について労務管理・労使紛争に詳しい弁護士が解説
信頼していた従業員による業務上横領は、企業に経済的な損害を与えるだけでなく、組織内の士気低下や企業の社会的信用の失墜にも直結する深刻な問題です。特に管理体制や人員に余裕がない中小企業においては、初期対応の初動を誤ると、事件を起こした従業員に対する懲戒処分が無効と判断されたり、被害回復(返金)が困難になったりする不測のリスクトラブルへ発展しかねません。
本記事では、100社以上の中小企業で顧問弁護士を務め、数多くの労使紛争・訴訟対応を行ってきたキャリア20年近くの弁護士が、会社において業務上横領が発生した際の会社側の適切な対応手順や予防策を分かりやすく解説します。
今回解説する内容は以下のとおりです。
1 業務上横領とは
2 業務上横領にあたる事例
3 業務上横領罪の量刑
4 会社内で業務上横領が起きた時の対応
(1)どのような対応すべきか
(2)証拠がない場合の対処方法
(3)弁護士への初期相談
5 従業員による業務上横領を防ぐ予防策
6 従業員の業務上横領について弁護士に相談するメリット
7 当事務所のサポート内容
1 業務上横領とは
S総務部長
「ニュースとかで耳にすることがある業務上横領って正確にはどのようなものなのでしょうか?会社のお金を懐に入れてしまった従業員の行為を指しているような気がするのですが。」
濵田弁護士
「業務上横領は自分が占有(自分の支配下ある)他人の物(典型的なのはお金ですが)を自分のものにすることを指します。この占有が従業員ではなく会社にある場合には窃盗と評価されることになりますし、従業員が占有していると評価されれば「横領」になります。
会社の中で経理担当の方が着服を行う場合には業務上横領と評価されることが多く、会社の金庫から一般の従業員がお金を持ち出して使ってしまうという行為は窃盗と評価されることになります。これは「占有」が会社と従業員のどちらにあるかによって罪名が変わるということになります。」
「業務上横領(ぎょうむじょうおうりょう)」とは、自己の占有する他人の物を、業務上の立場を利用して不法に領得(不法に自分のものにすること)する行為を指します。
刑法第253条に規定されており、単純横領罪(刑法第252条)と比較して、より重い刑罰(10年以下の拘禁刑)が課されることが規定されています。
なお「業務」とは反復・継続して行われる事務・管理行為を指し、金銭の保管や経理担当者だけでなく、商品や備品の管理業務を行う者も該当します。
また「占有」とは法律上または事実上に、その物を自らの支配・管理下に置いている状態を指します。
会社の経理担当者や備品の管理担当者が会社のお金や備品について勝手に自分のものにしてしまう行為(着服や転売等)が自己の「占有」する「他人の物」(会社の「物」)を
不法に両得したとして「業務上横領」と評価されることになるのです。
2 業務上横領にあたる事例
S総務部長
「従業員の行為が業務上横領と評価されるケースの具体例を教えてください。」
濵田弁護士
「経理や会計担当者が自分で管理している会社の預金口座から引き出して使ってしまったり、会社から出張費の名目で仮払いされたお金のうち出張費として使わずに手元にあるお金を会社に返さずに使ってしまうといった行為が業務上横領の典型例だと思います。」
中小企業で実際に発生しやすい業務上横領の典型例には、以下のようなケースがあります。
(1)経理・会計担当者による着服・私的流用
会社の口座から管理権限を利用して不正に預金を引き出したり、架空の取引先へ口座送金を行って私的に流用する行為。
(2)売上金の着服
顧客から直接回収した現金売上金を、売上台帳へ記帳せずそのままポケットに入れる(簿外化する)行為。
(3)経費の不当請求・架空請求(カラ出張・カラ請求)
事前に会社から仮払いされた出張経費や旅費の余りを、私的に着服・流用する行為。
(4)会社在庫・商品の不正転売
会社において在庫商品や備品を管理している従業員が自社の在庫商品や備品を無断で持ち出し、フリマアプリやリサイクルショップ等で転売して利益を得る行為。
3 業務上横領罪の量刑
S総務部長
「業務上横領の罪って重い刑罰が科されるんですよね?」
濵田弁護士
「業務上横領罪の法定刑は重いです。1か月以上10年以下の拘禁刑が規定されています。ただ法定刑に幅がありますし、量刑(刑罰の種類や軽重)を決める複数の要素で総合的に
判決で言い渡される刑は決まりますので実際に裁判で下される判決が重くなるとは限りません。」
業務上横領罪(刑法第253条)の法定刑は、「1か月以上10年以下の拘禁刑」です。罰金刑の規定が存在しないため、起訴されて有罪判決が出た場合、必ず「拘禁刑」が科されることになります。
なお実際の実務(判決)における量刑は、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
(1)被害額の規模
数千万円〜数億円規模の場合は実刑判決の可能性がかなり高くなります。
(2)手口の悪質性・期間
計画的かつ長期間にわたり巧妙に行われていたか、この点が肯定されると量刑は重くなります。
(3)被害弁償・示談の有無
本人が全額または一部を返還しているか、会社との間で示談が成立しているか、被害弁償をしていたり示談していたりすると量刑は軽くなります。
(4)反省の態度・初犯か否か
被害額が数百万円以上におよび、かつ被害弁償がなされていない場合、初犯であっても執行猶予がつかず、実刑判決が下される事例も少なくありません。
4 会社内で業務上横領が起きた時の対応
S総務部長
「実際に会社の中で従業員による着服、業務上横領に当たるようなケースが生じた場合に会社はどのように対応すればよいのでしょうか?」
濵田弁護士
「まず着服していることを裏付ける客観的な証拠を集めること、集まった証拠を元にして今後その従業員にどのような処分をするのか、刑事告訴をするのか、どのように着服された金額を回収していくのか等を検討することになります。この過程で証拠収集方法や集まった証拠の評価、それを踏まえた今後の対処について弁護士に相談することをお勧めします。」
(1)どのように対応すべきか
従業員による横領の発覚時、感情的に従業員を問い詰めたり、安易に解雇を行ったりすることは厳禁です。法的な根拠と客観的証拠に基づいた慎重な対応が不可欠となります。
基本的な対応フローとしては
①事実関係の調査および客観的証拠の保全
②本人へのヒアリング(事前通告なしの個別面談)
③誓約書・債務弁済契約書等の作成と提出要求
④懲戒処分の検討・実施(懲戒解雇等)
⑤損害賠償請求(民事対応)および刑事告訴(刑事対応)の検討
(2)証拠がない場合
「特定の従業員が横領している可能性が高いが、確実な証拠がない」という段階での対応には、極めて慎重な配慮が必要です。
十分な証拠がない段階で追及・問い詰めを行わない 証拠がない状態で本人を追求すると、証拠隠滅やデータを消去されたり、出社拒否や「不当な疑いをかけられた」として会社側が訴えられるリスクが生じます。
このことから問題の従業員の知らないところで客観的証拠の収集を優先する。
具体的には
①銀行口座の取引明細・通帳履歴の照合
②領収書、伝票、請求書、注文書などの照合・監査
③会計ソフトやPCログ、メール履歴の保全
④防犯カメラ映像や入退室ログの確認
(3)外部の専門家(弁護士)への初期ご相談
どのレベルの証拠が揃えば懲戒処分や損害賠償請求に耐えうるか、法的な見地から客観的な判断を得ることが、その後の紛争化を防ぐ最善策です。
客観的証拠の収集に先行して相談することも考えられますし、ある程度の客観的な証拠がそろったタイミングで相談することも考えられます。前者の目的は調査対象や調査方法への助言を得ることが主眼となるでしょうし、後者の目的はそれまでの調査結果の評価や今後の対応についての助言を得ることが主眼になると思います。
5 従業員による業務上横領を防ぐ予防策
S総務部長
「会社内で従業員による業務上横領を防ぐ予防策があれば教えてください。」
濵田弁護士
「まずお金の管理等について特定の誰か(例えば会計担当者)にしかわからない状態にしないこと、誰かが責任者であるとしてもその人をきちんとチェックできるような体制にすること、会社のお金の管理方法について厳格化すること等が考えられます。」
業務上横領は「動機」(経済的に困っている、借金がある、会社に対して個人的な恨みがある等)「プレッシャー」(会社から課されている売上げノルマが達成できずに上司から詰められている等)だけでなく、不正を行える「機会(環境)」が存在することで発生します。中小企業において実効性の高い予防策は以下の通りです。
(1)「ワンマン担当」の排除・業務の相互牽制(ダブルチェック制)
経理や現金管理を特定の1名に長期間任せきりにせず、必ず申請者・承認者を分ける体制を構築します。
(2)定期的なジョブローテーション・内部監査の実施
担当者を定期的に変更することで、不正の隠蔽を防止します。また、抜き打ちでの現金実査や帳簿チェックを行います。
(3)経費精算・現金取扱ルールの厳格化
可能な限りキャッシュレス化(法人カード決済・銀行振込)を進め、現金直接扱いの機会を減らします。
(4)就業規則・懲戒規定の明確化と周知
横領行為が厳重な社内での処分(例:懲戒解雇)や刑事告訴の対象となる旨を就業規則に明記し、社内へ徹底的に周知します。
6 従業員の業務上横領について弁護士に相談するメリット
S総務部長
「従業員の業務上横領について弁護士に相談するメリットは何でしょうか?」
濵田弁護士
「業務上横領の疑いがある従業員がいることを踏まえて今後どのように対応していくのか、それまでに行った会社の対応は間違っていないのか、着服された金額をどのように回収していくのか等、会社における段階に応じて弁護士に相談することで見通しが立ち、会社における調査やそれを踏まえた対応方針の検証ができますので、どのタイミングで相談してもメリットがあると思います。ただ会社の初動が間違っているとその後に修正するのが難しくなることもありますので早期に相談するのが良いと考えます。」
業務上横領の問題に対応する場合、単なる「社内処分」にとどまらず、労働法・民法・刑法が複雑に絡み合う法的手続きが必要となります。早い段階で弁護士へ相談することで、以下の大きなメリットが得られます。
(1) 適切な証拠保全と初動対応のアドバイス
裁判や交渉に耐えうる証拠の集め方、本人ヒアリング時の立ち合いや自認書(供述書)の適切な文言作成をサポートします。
(2) 懲戒解雇の無効リスク(労使紛争)の回避
懲戒手続きのデュープロセス(適正手続)を遵守し、後に従業員側から「不当解雇」として争われるリスクを最小限に抑えます。そもそも懲戒解雇をせずに退職勧奨をして自己都合退職していただくのが最適解であることが多いのでそのノウハウを弁護士から得ることが可能です。
(3)被害金の回収・損害賠償の交渉・法的措置
本人の所有資産の仮差し押さえや、身元保証人への請求、示談交渉など、会社の実質的な被害回復に向けた各種法的手続きを代理します。本人との間で債務弁済公正証書を作成するなど訴訟しないで解決する方法やその際に本人のご親族に本人の債務の連帯保証をしてもらうといったケースもありますが、どのように進めていくのかの助言を得ることが可能です。
(4)警察対応および刑事告訴のサポート
警察への被害届の提出や刑事告訴状の作成・提出に向けた捜査機関への対応を円滑に進めることができます。
7 当事務所のサポート内容
S総務部長
「みなみ総合法律事務所ではどういったサポートをしていただけるのでしょうか。」
濵田弁護士
「当事務所は多くの企業・法人、社労士の先生方と顧問契約を締結して従業員の業務上横領を含む多くの労務に関する相談対応、案件対応を行い解決した実績があります。業務上横領の疑いが生じている場合の初動についての助言や必要な文書の作成、必要に応じて会社の代理人としての交渉業務や紛争化した場合の代理人としての対応などをしております。現在では、ほとんどのサポートについてその会社と顧問契約を締結していただき、その顧問業務として対応させていただいております。」
当事務所では、これまで数多くの企業様から従業員の業務上横領を含む問題社員対応に伴う労使紛争のご相談をお受けし、円満な解決や適法な退職処理をサポートしてまいりました。現在ではスポットの案件のご依頼ではなく顧問契約を締結していただき、その顧問業務として以下のような対応をさせていただいているところです。
・業務上横領が疑われる初動対応の助言
・会社での調査を踏まえた補充調査の必要性についての助言や集まった客観的な証拠の評価
・業務上横領を行った社員に対してどのような対応をしていくのか(金銭請求、債務弁済公正証書の作成、刑事告訴等)の助言
・会社の代理人として従業員に対して損害賠償請求を内容とする交渉、民事訴訟の提起、業務上横領罪での刑事告訴のサポート等
日頃から顧問業務として従業員による業務上横領(小口の現金の着服を含む)を含めた色々な相談に乗っていると会社の内情や人間関係がわかりますし、適切な対応を指示しやすくなると考えております。
弁護士は紛争が生じてからようやく相談するところではなく、日常の中で困ったことがあればすぐに相談して悩みから解消されるのが最も合理的であり、この点については従業員の業務上横領に限らず、どのような法律問題についても言えることだと思います。
日頃から困ったことがあればすぐに弁護士に相談できるようにするために当事務所との顧問契約を検討されたい会社経営者の皆様、法務担当者の皆様は遠慮なくお問い合わせください。
文責 弁護士 濵田 諭
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