従業員から労災を主張された場合の対応方法と企業の安全配慮義務について労務管理・労使紛争に詳しい弁護士が解説

従業員から「業務中の事故でケガをした」「過重労働やハラスメントでメンタルヘルス疾患を発症した」として労災(労働災害)を主張された場合、企業の初動対応や対応方針を誤ると、労働基準監督署からの是正勧告や、被災従業員・遺族からの高額な損害賠償請求(民事訴訟)へと発展するリスクがあります。

本記事では、企業からの労務相談や労使紛争解決に長年携わってきた弁護士の視点から、中小企業の経営者様や人事労務担当者様に向けて、労災主張への正しい初動対応、業務上・業務外の判断基準、安全配慮義務違反のリスク、そして専門家へ相談するメリットについて分かりやすく解説します。

今回解説する内容は以下のとおりです。

1 従業員から労災と主張された場合の企業側の正しい初動対応

2 「業務上・業務外」の判断基準

3 企業の安全配慮義務について

(1)安全配慮義務とは

(2)安全配慮義務違反が企業にもたらすリスク

4 労災トラブルについて弁護士に相談するメリット

5 当事務所のサポート内容

1 従業員から労災と主張された場合の企業側の正しい初動対応

T総務部長

「上司からのパワハラによって抗うつ状態になったので労災申請をしたいとの申し出がありましたが、現場でのケガについて労災申請をしたことはあるもののこのようなケースでどのように対応すればよいかがわかりません。労災主張をされた場合の正しい初動対応を教えてください。」

濵田弁護士

「現場での事故によるケガの場合は労災主張について納得されると思うのですが、ハラスメントを原因とするメンタルヘルス不調の場合には心情的に納得できない気持ちが強いと思います。しかし感情的になってはいけません。事実を迅速かつ正確に確認し労災であると判断した場合には速やかに労基署へ報告する、事実関係が認められない場合には安易に従業員の主張を認めることなく「事業主証明欄」を空白にして証明拒否理由書を提出するなどの適切な対応をすることが重要です。」

従業員から労災申請の申し出や労災主張を受けた際、感情的にならず、客観的・法的根拠に基づいた冷静な初動対応をとることが極めて重要です。

(1)客観的な事実関係の正確な把握・ヒアリング

まず最初に行うべきは、事実関係の迅速かつ正確な調査です。

①怪我・物理的事故の場合

事故発生日時・場所・作業内容・負傷部位・目撃者の有無・事故原因を具体的に記録し、現場の写真撮影や関係者からの聞き取りを行います。

②精神疾患・過重労働・ハラスメントの場合

過去数ヶ月間の客観的な勤怠データ(タイムカード、PCログ、メール送信履歴等)、業務量や内容の変化、職場で発生した具体的な出来事(叱責やハラスメントの有無等)を整理・保管します。

(2)必要な医療手配と労働基準監督署への報告

被災直後の緊急手当てや病院手配など、安全と医療の確保に万全を期すことはもちろん、法令上の報告義務も遵守する必要があります。

①労働者死傷病報告の提出

休業日数が4日以上の労働災害が発生した場合、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。

②「労災隠し」の厳禁

報告を怠ったり、事故事実を隠蔽・偽装したりする行為は「労災隠し」となり、労働安全衛生法違反として刑事罰(罰金等)の対象となります。企業の社会的信用を大きく損なうため、絶対に行ってはなりません。

(3)労災保険申請手続への協力と会社側主張の整理

労災保険の給付請求書には「事業主証明欄」があります。会社は原則として事実関係の証明に協力する義務を負います。

①主張が食い違う場合の対応

従業員の主張(例:「上司のパワハラでうつ病になった」「業務時間外に起きた事故」等)に会社として疑問がある場合、安易に言われるがまま証明を行ってはいけません。

②「事業主意見書」の添付

証明欄を空欄にした上で、「証明拒否理由書」を添えて労働基準監督署に提出することで、会社の主張や客観的証拠を適切に行政に伝えることができます。

2 「業務上・業務外」の判断基準

T総務部長

「従業員に起きたことが労災になるかどうかの判断基準がわからないのですが簡単に教えていただけると助かります。」

濵田弁護士

「労働災害として認められるかは①業務遂行性②業務起因性の2点から判断されます。①については簡単に言えば「仕事中に起きたことなのか」②については「仕事が原因で起きたのか」を判断するものと考えるとイメージがつかみやすいでしょう。」

労働災害と認められるか(労災保険給付の対象となるか)は、労働基準監督署が「業務上」か「業務外」かについて判断します。その判断基準となるのが以下の2点です。

(1)業務遂行性

 労働者が事業主の支配・管理下にある状態で発生した災害であること(就業時間内の作業中、出張中など)。

(2)業務起因性

 業務と傷病(負傷・疾病・死亡)との間に相当因果関係が存在すること(業務上の危険が現実化したこと)

(3)主な場面ごとの具体的な判断ポイント

①休憩時間中の事故

社内にいる場合でも、私的行為や自由行動中の事故は原則として「業務外」となります。ただし、会社の施設欠陥(階段の破損等)が原因でケガをした場合は「業務上」と認められることがあります。

②通勤中の事故

「通勤災害」として保護対象になりますが、合理的な経路・方法を著しく逸脱・中断した場合、その後の事故は原則として通勤災害になりません(日常必要な最小限の買物等を除く)。

③メンタルヘルス疾患・ハラスメント

発症前おおむね6ヶ月間の「特別な出来事」(過重労働、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、配置転換など)の心理的負荷の強度が、厚生労働省の認定基準において客観的に「強」と評価されるかが判断のポイントとなります。

3 企業の安全配慮義務について

T総務部長

「会社は従業員に対して安全配慮義務を負っているということを良く聞きますが、この安全配慮義務とは何なのかについて教えてください。また会社が安全配慮義務を怠った場合には会社にどのようなリスクがあるのかも併せて教えていただけると助かります。」

濵田弁護士

「安全配慮義務とは労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務のことで、かつては裁判所が会社側に責任を認める場面で使われてきたものですが現在では労働契約法第5条に明記されています。この義務には単純に

物理的な危険を避けるための措置をとらなくてはいけないという義務のみならず従業員に対して適切な職場環境を確保するといった義務も含まれていますので注意が必要です。労災が主張される場面では会社の安全配慮義務違反が従業員から主張されることが多く、この主張が認められると多額の損害賠償責任を負うリスクがあります。」

(1)安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に明記されている企業の法的な義務であり、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務」を指します。

これは単に「工場内の機械事故を防ぐ」といった物理的防護策にとどまりません。適切な作業環境の整備、過重労働・長時間労働の防止、メンタルヘルスケア、ハラスメント防止体制の構築など、労働者の心身の健康を守る広範な責務が企業に課されています。

(2)安全配慮義務違反が企業にもたらすリスク

労災認定が下りた場合、医療費(療養費)や休業補償は労災保険から支給されます。しかし、労災保険では慰謝料や逸失利益の全額はカバーされません。そのため、会社側に安全配慮義務違反があった場合、被災従業員や遺族から直接、巨額の民事上の損害賠償を請求されるリスクがあります。

①民事上の巨額な損害賠償請求リスク

死亡事故や重大な後遺障害、深刻な精神障害(うつ病等)の場合、数千万円から1億円を超える損害賠償請求に発展するケースも少なくありません。

②企業の社会的信用失墜・採用難

悪質な過重労働や重大な労災事故が報道・公表された場合、企業イメージが失墜し、顧客離れや人材採用難に直面します。

③職場環境の悪化・退職の連鎖

会社の労務管理や安全配慮の不備が顕在化することで、他の従業員の会社に対する不信感が高まり、モチベーションの低下や退職の連鎖を引き起こします。

4 労災トラブルについて弁護士に相談するメリット

T総務部長

「従業員が労災を主張しているようなトラブルについて弁護士に相談するメリットはどこにあるのでしょうか?」

濵田弁護士

「従業員が主張している事実があったと仮定した場合には労災に該当するのかを客観的に評価してもらうことが可能ですし、事実関係に争いがある場合には労災申請の希望についてどのように対応するのかも助言をもらうことも可能です。労災が認定されたとしても会社に対する損害賠償請求は別途対応する必要がありますので、その対応についても相談や依頼をすることが可能です。このあたりがメリットになると思います。」

労災トラブルが発生した場合や、従業員から労災主張がなされた初期段階で労災についてきちんとした知識と経験を持つ弁護士に相談することには、以下のメリットがあります。

(1)業務起因性や安全配慮義務違反の有無を客観的・法的に正しく評価できる

会社側に法的責任があるのか、過失相殺(従業員側の不注意)を主張できる状況かなどを冷静に分析・予測します。

(2)労基署への意見書作成や被災従業員との交渉を適正かつ円滑に進められる

 従業員との感情的な対立を防ぎつつ、会社側の主張を論理的・法的に整理した「事業主意見書」を作成・提出できます。

(3)民事上の損害賠償交渉や労働審判・訴訟において企業の不当な損害を回避できる

 万が一、紛争化した際にも、適正な損害額の試算や会社側の安全配慮義務履行の立証を迅速に行い、企業の防衛に努めます。

5 当事務所のサポート内容

S総務部長

「労災が絡んだ案件についてみなみ総合法律事務所ではどういったサポートをしていただけるのでしょうか。」

濵田弁護士

「当事務所は多くの企業・法人、社労士の先生方と顧問契約を締結して労災が絡んだ案件を含む多くの労務に関する相談対応、案件対応を行い解決した実績があります。従業員が労災を主張してきている場合にどのように対処すればよいのかの助言や必要な文書の作成、必要に応じて会社の代理人としての交渉業務や紛争化した場合の代理人としての対応などをしております。現在では、ほとんどのサポートについてその会社と顧問契約を締結していただき、その顧問業務として対応させていただいております。」

当事務所では、これまで数多くの企業様から労災が絡んだ(従業員が労災を主張した)労使紛争のご相談をお受けし、円満な解決や不当な労災主張の排除といった形で企業様をサポートしてまいりました。現在ではスポットの案件のご依頼ではなく顧問契約を締結していただき、その顧問業務として以下のような対応をさせていただいているところです。

・初動対応・事実関係調査の助言・サポート

労災主張がなされた直後のヒアリング方法、証拠保全、労働基準監督署への報告対応について具体的な助言を行います。

・「事業主意見書」「証明拒否理由書」等の労基署提出書類の作成のサポート

会社の主張を裏付ける客観的証拠に基づき、法的に説得力のある書類を作成するお手伝いをいたします。

・被災従業員・遺族・弁護士との交渉代行(労使紛争対応)

 損害賠償請求や示談交渉、労働審判・訴訟における代理人として、会社に代わって交渉・対応にあたります。

・安全配慮義務履行のための予防労務・体制構築

就業規則・36協定の見直し、過重労働防止策、ハラスメント防止体制の構築など、労災を未然に防ぐ予防法務を提供します。

日頃から顧問業務として労災に関わる問題を含めた色々な相談に乗っていると会社の内情や人間関係がわかりますし、適切な対応を指示しやすくなると考えております。

弁護士は紛争が生じてからようやく相談するところではなく、日常の中で困ったことがあればすぐに相談して悩みから解消されるのが最も合理的であり、この点については労災に関わる問題に限らず、どのような法律問題についても言えることだと思います。

日頃から困ったことがあればすぐに弁護士に相談できるようにするために当事務所との顧問契約を検討されたい会社経営者の皆様、法務担当者の皆様は遠慮なくお問い合わせください。

文責  弁護士 濵田 諭

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