【弁護士が解説】介護現場におけるカスハラ(カスタマーハラスメント)の実態と企業の防衛策
「ハラスメント対応を弁護士に依頼するメリットとは?企業法務に詳しい弁護士が解説」
近年、ビジネスのあらゆる現場で「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が深刻な問題となっています。なかでも、慢性的な人手不足に悩む介護業界におけるカスハラは、職員の離職を加速させ、最悪の場合には事業継続を不可能にする極めて深刻な経営リスクです。
私はこれまで20年近く、多くの法人(社会福祉法人や介護事業をしている株式会社を含む)の顧問弁護士として、現場の労務問題に関する相談対応や紛争の解決に携わってきました。それらの経験を踏まえ、介護現場におけるカスハラの特徴、放置するリスク、そして企業が今すぐ講じるべき具体的な対策について解説します。
今回お話しする内容は以下のとおりです。
1 介護現場におけるカスハラの特徴
(1)利用者からのカスハラ
(2)利用者の家族からのカスハラ
2 介護現場におけるカスハラの具体例
3 カスハラへの対処法
4 カスハラを放置するリスク
5 企業がカスハラ予防策として取り組むべきこと
(1)カスハラ対策義務化について
(2)具体的な施策
6 カスハラ対応について弁護士に依頼するメリット
7 当事務所のサポート内容
1. 介護現場におけるカスハラの特徴
介護現場におけるカスハラは、一般的な接客業やサービス業とは異なる特有の難しさがあります。それは、ハラスメントの加害者が「利用者本人」であるケースと、「利用者の家族」であるケースの2パターンが存在する点です。
(1)利用者からのカスハラ
利用者による暴言、暴力、セクシャルハラスメントなどです。 ここで難しいのは、利用者に認知症や精神的な疾患、脳血管障害の後遺症などがあり、「本人に悪気がない(病気や症状に起因する行為である)」ケースが少なくない点です。現場の職員も「病気だから仕方がない」と我慢してしまいがちで、被害が潜在化しやすい特徴があります。
(2) 利用者の家族からのカスハラ
実は、現場の職員を精神的に最も追い詰めるのは、この利用者の「家族からのカスハラ」であるケースが多々あります。 「費用を払っているのだから、これくらいやって当然だ」という過度な特権意識や、介護への不安・ストレスの裏返しとして、職員に理不尽な要求や執拗な非難を浴びせるケースです。
2. 介護現場におけるカスハラの具体例
現場では、以下のような行為が日常的に発生しています。これらは単なる「厳しいご意見(クレーム)」ではなく、明確なカスハラにあたります。
・精神的な攻撃: 「お前じゃ話にならない、担当を替えろ」「バカ」「死ね」などの暴言、大声での威嚇、土下座の要求。
・身体的な攻撃: 介助中に殴る、蹴る、物を投げつける、髪を引っ張る。
・過剰な要求: 契約内容(ケアプラン)に含まれていない同居家族の食事作りや庭掃除などを強要する、夜間に何度も執拗に電話をかける。
・性的ハラスメント: 身体に不必要に触れる、性的な冗談を言う、職員と2人きりになろうとする。
3. カスハラへの対処法(現場における基本行動)
カスハラが発生した際、現場の職員や管理者が取るべき基本的な対処法は以下の3ステップです。
(1)組織として対応し、一人に抱え込ませない
カスハラ対応は「組織対顧客」の構図にすることが鉄則です。現場の職員だけで解決させず、すぐに管理者が介入してください。訪問介護であれば、次回から2人体制で訪問するなどの措置を取ります。
(2)事実関係の正確な記録(証拠化)
言動の録音・録画、詳細な日時や発言内容のメモを残します。これらは後に契約解除や法的措置をとる際の極めて重要な証拠となります。
(3)毅然とした態度での境界線の設定
理不尽な要求に対しては、曖昧な返事をせず「当施設ではこれ以上の対応はいたしかねます」と明確に拒絶することが重要です。
4. カスハラを放置するリスク
「大切なお客様だから」「事を荒立てたくないから」とカスハラを放置することは、企業にとって致命的なリスクをもたらします。
(1)職員のメンタルヘルス不調と離職
優秀な職員が次々と辞めていき、さらなる人手不足に陥ります。
(2)企業の「安全配慮義務違反」
会社がカスハラを知りながら適切な措置をとらなかった場合、職員から安全配慮義務違反として損害賠償請求をされる法的リスクがあります。
(3)サービス品質の低下
特定の利用者や利用者家族への対応に時間を取られることで、他の利用者へのサービス体制が手薄になり、介護事故のリスクが高まります。
5. 企業がカスハラ予防策として取り組むべきこと
(1)カスハラ対策の義務化について
法的な動きとして、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)において、企業は顧客からの著しい迷惑行為(カスハラ)に関し、労働者の相談に応じ、適切に対応するための体制整備(相談窓口の設置など)を行うことが「望ましい」とされています。また、東京都をはじめとする自治体では「カスハラ防止条例」の制定・施行が進んでおり、国レベルでも一歩踏み込んだ義務化への議論が加速しています。介護事業の経営を行う事業主にとって、対策は「できればやる」ものではなく、「今すぐ取り組まねばならない必須事項」となっています。
(2)具体的な施策
①基本方針・マニュアルの策定
どこまでが「正当な苦情」で、どこからが「カスハラ」なのかの基準を明確にし、対応手順をマニュアル化します。
②重要事項説明書・契約書への明記
利用開始時の契約書等に「職員に対するハラスメント行為があった場合は、契約を解除することがある」旨の条項を明記しておきます(これが最大の抑止力になります)。
③職員への研修の実施
カスハラに直面した際の初期対応や、証拠の残し方について定期的な研修を行います。
6. カスハラ対応について弁護士に依頼するメリット
カスハラ問題に弁護士を介入させることには、経営上、非常に大きなメリットがあります。
(1)「契約解除」や「出入り禁止」の法的な正当性の担保
悪質な利用者との契約を解除する場合、手続きを誤ると逆に事業者側が債務不履行で訴えられるリスクがあります。弁護士が介入することで、法的に落ち度のない形で適切な契約解除(ケアの終了)を進められます。
(2)窓口の代行による現場の負担軽減
弁護士が「会社の代理人」として相手方(家族など)との交渉窓口になることで、クレーマーからの理不尽な連絡が一切現場に行かなくなります。これにより職員の安心感は劇的に高まります。
(3)悪質なケースへの法的措置
カスハラを行う方の行為が器物損壊や傷害、威力業務妨害などの罪名に該当し刑事事件に発展しうるケースでは、警察への告訴や民事上の損害賠償請求を内容とする文書の発送等や交渉が決裂した場合の民事訴訟の提起等を迅速に行うことができます。なお金銭の支払い要求を伴う不当要求が継続する場合には債務不存在確認請求を内容とする民事訴訟を提起して解決を図るケースもあります。
7.当事務所のサポート内容
当事務所は多くの会社の顧問業務を日常的に行っており、社会福祉法人,介護事業を営む会社等の顧問先を多く抱えております。顧問業務の中でハラスメントがあった場合の対応、ハラスメントの申告があった際の調査方法、ハラスメントと評価できるかどうか等について相談を受けることが少なくありません。セクハラについての相談を受けることはかなり減りましたが、パワハラ、カスハラについての相談は増加傾向にあると感じています。
どのハラスメントであれ、ハラスメント問題を抱えている会社は多かれ少なかれ職場環境が悪化しますし、多くの離職者を出す潜在的なリスクを抱えていると思います。このような相談への対応を日常的に顧問業務の範囲内で行っている次第です。
日頃から顧問業務としてハラスメント問題以外の色々な相談に乗っていると会社の内情や人間関係がわかりますし、適切な対応を指示しやすくなると考えております。
弁護士は紛争が生じてからようやく相談するところではなく、日常の中で困ったことがあればすぐに相談して悩みから解消されるのが最も合理的であり、この点についてはハラスメント問題に限らず、どのような法律問題についても言えることだと思います。
日頃から困ったことがあればすぐに弁護士に相談できるようにするために当事務所との顧問契約を検討されたい会社経営者の皆様、法務担当者の皆様は遠慮なくお問い合わせください。
文責 弁護士 濵田 諭
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