不当解雇にならないためのポイントとは?問題社員への対処として解雇も視野に入れて検討する際の注意点について労務管理・労使紛争に詳しい弁護士が解説
弁護士として20年近く、数多くの企業様の顧問業務や労務トラブルの解決に携わってまいりました。その中で、経営者や人事担当者の方から頻繁にご相談いただくテーマの一つが
問題社員への対応であり具体的に言いますと「問題社員を辞めさせたい」というものです。
問題社員を解雇したいが解雇は難しいらしいというレベルでの認識を持っている会社経営者が多くなってきている印象がありますが、不当解雇してしまった場合のリスク、解雇
をやむを得ず選択する場合にはどのような準備が必要であるのかについて正確な知識を持っている会社経営者はほとんどいないと思います。
本コラムでは、不当解雇と評価されないためのポイント、問題社員対応として解雇がどのように位置づけられるのかまで分かりやすく解説します。
今回解説する内容は以下のとおりです。
1 不当解雇とは?
2 不当解雇のリスク
3 不当解雇と評価されないためには
4 不当解雇と評価される解雇を行わない問題社員対応
5 不当解雇として訴えられた場合の対応
6 弁護士に相談するメリット
7 不当解雇をされた労働者との間での法的紛争についての実例(会社側の代理人として対応した経験談等)
1 不当解雇とは?
S総務部長
「会社が行った解雇が不当解雇と評価されたという話を良く聞くのですが、この不当解雇ってそもそも何ですか?」
濵田弁護士
「不当解雇は法律上の用語ではありません。法律上の要件を満たさない、解雇権濫用にあたると評価されてその効力が認められない解雇のことを不当解雇と言うことが多いです。」
「不当解雇」は法律上の用語ではありませんが、一般に、法律上の要件を満たさず無効となる解雇を指します。
労働契約法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。つまり、解雇が有効となるには、①解雇に客観的に合理的な理由があること、②解雇という手段を選ぶことが社会通念上相当であること、の両方が必要です。
このほか、業務上の傷病による休業期間とその後30日間の解雇制限(労働基準法19条)、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払(同法20条)、妊娠・出産や育児休業の取得等を理由とする解雇の禁止など、個別の法律による規制もあります。
2 不当解雇のリスク
S総務部長
「会社が行った解雇が不当解雇と評価される場合のリスクを教えてください。」
濵田弁護士
「不当解雇と評価されるということは解雇が無効と評価されるということです。そうすると社員との雇用契約が続いていることになり、かつ会社が解雇したから社員が就労できない状態であったわけですから会社は社員が働いていなくても賃金を支払わなくてはいけないことになります。解雇してから不当解雇と評価されるまでの期間についてさかのぼって賃金を支払わなくてはいけなくなる、これをバックペイというのですが、これが最大のリスクです。」
解雇が無効と判断されると、労働契約は解雇後も続いていたものとして扱われます。その結果、会社は解雇日から判決確定までの賃金(いわゆるバックペイ)を支払わなければなりません。訴訟が1年から2年に及べば、その期間の賃金全額が対象となり、数百万円から1000万円を超える支払いとなることも珍しくありません。
さらに、当該従業員の職場復帰、慰謝料の請求、弁護士費用、経営者や担当者が対応に割く時間と労力といった負担も生じます。他の従業員の士気低下や、インターネット・SNS上での風評被害など、金銭に換算できない影響も軽視できません。
3 不当解雇と評価されないためには
S総務部長
「会社が社員を解雇する場合にそれが不当解雇と評価されないためにできることがあれば教えてください。」
濵田弁護士
「就業規則の整備、解雇を検討している社員に対して問題行為については注意・指導の積み重ねとその記録化、いきなり解雇をせずに口頭での指導、書面での注意・警告、それを受けた社員の反応を記録、軽微な懲戒処分から徐々に下す等の段階的な対応をしていく必要があると思いますし懲戒解雇については特に適正な手続きを踏まなくてはいけないことに留意する必要があります。」
裁判所は、会社が解雇に至るまでにどのような対応をとってきたかを重視します。特に次の点が重要です。
(1)就業規則の整備
解雇事由や懲戒事由が就業規則に具体的に定められ、従業員に周知されていることが前提です。特に懲戒解雇は、就業規則に根拠がなければ行うことができません。
(2)注意・指導の積み重ねと記録化
問題行動があるたびに具体的に注意・指導を行い、日時・内容・本人の反応を書面やメールで記録しておくことが重要です。口頭での注意だけで記録がなければ、裁判で「指導した」と証明することは困難です。
(3)段階的な対応
口頭での指導、書面での注意・警告、譴責や減給などの軽い懲戒処分、配置転換の検討といったように段階を踏み、それでも改善しない場合にはじめて解雇を検討します。能力不足を理由とする解雇では、教育や配置転換などの改善努力が特に厳しく問われます。
(4)適正な手続
懲戒解雇については本人に弁明の機会を与え、就業規則に定める手続を守ることが必要です。また、懲戒解雇の場合も普通解雇の場合も解雇理由証明書の請求があれば交付義務があり(労働基準法22条)、後から解雇理由を追加することは容易ではないため、解雇時点で理由を整理しておく必要があります。
4 不当解雇と評価される解雇を行わない問題社員対応
S総務部長
「それでは不当解雇と評価されるような解雇を行わない形での問題社員対応についてどのようにすればよいのかを教えてください。」
濵田弁護士
「そもそも解雇は最終手段であり、基本的には地道な退職勧奨を行って合意退職で処理することに注力すべきです。退職勧奨に当たっては長時間にならない、多数回に及ばない、威圧的・執拗と評価されないといった注意点はあるものの退職してほしいと会社が勧めること自体は違法ではありませんので、退職の条件や退職の時期の調整で合意退職で終わらせるというのが基本です。」
問題社員対応において、解雇はあくまで「最終手段」と位置づけるべきものです。まずは指導を通じて改善の機会を与えることが出発点となります。
それでも改善が見られない場合、実務上はいきなり解雇するのではなく、退職勧奨による合意退職を目指すことが現実的です。合意による退職であれば、原則として不当解雇の問題は生じません。
ただし、強い口調での退職の要求や、長時間・多数回にわたる面談など、執拗・威圧的な勧奨は違法な退職強要とされ、損害賠償の対象となり得ます。面談の回数・時間・同席者数に配慮し、解決金の上乗せや有給休暇の消化などの条件を提示したうえで、合意内容は必ず退職合意書として書面化しておきましょう。
5 不当解雇として訴えられた場合の対応
S総務部長
「社員を解雇してしまった後に不当解雇と評価されて社員側から法的措置が取られた場合にどのように対応すればよいかを教えてください。」
濵田弁護士
「交渉、労働審判申立て、訴訟提起などどの段階においても速やかに弁護士に相談して代理人弁護士として対応してもらうというのが最適解であることが多いと思います。その際には不当解雇と評価されるリスクを考慮して速やかに解雇を撤回しつつ退職の条件について交渉していくという対応が適切であるケースも少なくありません。」
解雇をめぐる紛争は、元従業員の代理人弁護士からの内容証明郵便、労働審判や訴訟の申立て、合同労組(ユニオン)からの団体交渉の申入れなどの形で始まります。
労働審判は原則として3回以内の期日で審理が終結するため、第1回期日までに会社側の主張と証拠を尽くす必要があり、準備期間は極めて短くなります。また、団体交渉を正当な理由なく拒否すると不当労働行為となるため注意が必要です。
いずれの場合も、初動対応が結果を大きく左右します。指導記録や就業規則などの証拠を速やかに整理し、勝敗の見通しを踏まえて、解決金の支払いによる合意退職といった和解も含めて方針を検討することが重要です。書面が届いた段階で、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
6 弁護士に相談するメリット
S総務部長
「社員を解雇すべきかどうかや社員を解雇してしまった後の対応について弁護士に相談するメリットはどの当たりになりますか。」
濵田弁護士
「社員を解雇する前であれば問題のある社員に対してどのように対処していくのかよいか、退職勧奨の方法等について適切な助言が得られます。その際には解雇する場合のリスク評価も正確なものが得られるかと思います。解雇してしまった後であれば既に行った解雇を維持しつつ争うのがよいのか撤回しつつ退職に向けた交渉を行うのがよいのかといった今後の落としどころ、それまでにかかる時間・労力・費用とそれを踏まえて今何をすべきかについて適切な助言を得ながら紛争解決に向けて対応することが可能となります。」
労務問題に詳しい弁護士に早い段階から相談することで、次のようなメリットがあります。
(1)解雇の可否やリスクを事前に具体的に判断できる
社員の問題行動やそれまでの処分歴、会社が社員に対して行ってきた指導監督の記録等から解雇することができるか(不当解雇と評価されない解雇をする余地があるか)、解雇した場合に不当解雇と評価される可能性がどの程度あるかを具体的に判断できます。
(2)指導書や懲戒処分の通知書など、証拠となる書面を適切に作成できる
将来の解雇に備えて指導書や現在できるであろう懲戒処分についてどのような文書を作成すればよいかの助言を得て将来解雇をめぐる紛争となった際に使える文書を適切に作成することが可能です。
(3)退職勧奨の進め方や退職合意書の内容について助言を受けられる
問題社員に対する退職勧奨をどのように進めればよいのか、退職条件について合意に至った際にどのような退職合意書を作成すればよいのかについて適切な助言を受けることが可能です。
(4)紛争化した場合にも、代理人として迅速に対応できる
退職勧奨や解雇といった対応が代理人弁護士から文書が来ることをスタートとする交渉、労働審判、民事訴訟といった労使紛争に発展した場合に弁護士に速やかに依頼して迅速な対応をすることが可能となります。
(5)顧問契約を通じて、就業規則の見直しなどトラブルを予防する体制を整えられる
問題社員対応などについて日常的に相談できる体制、不備のある就業規則についてどのような加筆・修正をすればよいのかについて適宜相談できる体制を整えるために顧問契約を締結して日頃から労使紛争を予防する体制を整えることが可能です。
7 不当解雇をされた労働者との間での法的紛争についての実例(会社側の代理人として対応した経験談等)
S総務部長
「会社が行った解雇が不当解雇と評価されるような紛争について実際の経験談があれば教えてください。」
濵田弁護士
「不当解雇と評価されるリスクがある解雇を速やかに撤回して合意退職で解決したケースが複数あります。解雇してしまった段階では社員側から要求されている解決金の額が賃金1年分だったものが解決段階では賃金3か月分の支払いという条件で合意退職で解決できたケースが最近もありましたので、このケースを以下でご紹介します。」
私自身が問題社員対応について経営者側から助言を求めらる際には解雇を勧めることはほとんどありません。懲戒解雇が有効になるであろう場面でも退職で処理するように助言をしてその通りに進めていただくようにしておりますので問題社員が自主退職するパターン(問題が重大な場合はこのパターンが多いです)、合意退職で処理するパターンのいずれかで問題は解決することがほとんどです。
しかし私が普段から助言する機会のない(顧問先でない)企業においては問題社員を解雇してしまって問題社員側に代理人弁護士が付いて不当解雇を前提とする法的主張をされるに至ってようやく事の重大性に気が付くというケースが多いようです。そのうち私が会社側の代理人として対応した1例をご紹介します。
試用期間中の社員について就労意欲や能力に問題があると判断してその旨をこの社員に会社が指摘したところ解雇してくれと言われて解雇したところ、この社員の代理人弁護士から不当解雇であること、それを理由として解決条件として賃金1年分の解決金を要求されるという状態に至った会社から相談を受けて、私がこの会社の代理人として交渉を担当することになりました。
このケースで私が行ったのは会社が行った解雇の意思表示を撤回して社員に対して就労を促すという対応です。不当解雇をめぐる紛争では退職合意のタイミングで解雇の意思表示を撤回することが多いのですが、そうすると合意の時点までバックペイ(賃金未払い額が累積してその分を後から支払うこと)が発生することになり解決までの長期化が会社へ経済的なダメージとして累積していきます。かかる事態を避けるために先に解雇の意思表示を撤回して会社のせいで働けなくなっているとうい状態を解消してバックペイが発生するリスクを軽減するということです。
もちろん問題社員に職場復帰されてしまうと困るという会社の実情もあると思うのですが代理人弁護士を付けて多額の解決金と引き換えの解決案を提示しているケースでは社員の目的は職場復帰ではなくお金であることが多く、このケースもそうであると私は判断しました。
このケースは賃金3か月分を支払い、会社都合退職を離職理由とする合意退職の形で解決しましたので最初から退職勧奨をした場合と解決水準(会社の手出し額)がそれほど変わりませんでした。
本来は解雇などせずに退職勧奨で処理できた可能性があるケースですし、試用期間中にきちんとした指導・監督をしてそれを記録化していれば試用期間満了時に本採用しないという形での対応もあり得たと思います。
このケースは会社の初期対応のミスをその後の対応である程度リカバリーできたケースですが、初期対応は誤らない方が良いですし、そのためには問題社員対応について普段から弁護士に相談する習慣をつけていただくこと、その手段として弁護士と顧問契約を締結して会社の内情や社内風土、問題社員の存在とそれに対するそれまでの対応状況を共有していただき、適切な対応について適宜相談されるのが最も合理的ではないかと考えております。
顧問弁護士を選択する際には労使紛争の対応経験やそこから逆算した予防法務の提案ができる弁護士、法律事務所を選んでいただけると良いと思います。当事務所がその最適解の1つではないかと考えておりますので顧問弁護士を探しておられる会社経営者、総務担当者の皆様、気軽にご相談ください。
文責 弁護士 濵田 諭
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