問題社員を解雇するための手順とは?解雇をするための要件やポイントを解説
今回は問題社員を解雇するための手順などについてお話していこうと思います。
今回お話しする内容の項目は下記のとおりです。
第1 問題社員の解雇が有効になる要件
1 解雇一般の有効性
2 懲戒解雇の有効性
3 普通解雇の有効性
4 整理解雇の有効性
第2 問題社員を解雇する手順
1 懲戒解雇の場合
2 普通解雇の場合
第3 問題社員の解雇について弁護士に依頼するメリット
第4 当事務所がサポートできること
それでは早速内容に入っていきましょう!本来は解雇を避けるべく退職勧奨を行って自主退職での解決を図るのが基本線なのですが,その線での解決ができずに問題社員を解雇しなくてはいけなくなった場面を想定して書いていきます。問題社員の解雇が後に無効と判断されないように解雇をしなくてはいけませんので解雇が有効になる要件という視点で書いていきます。
第1 問題社員の解雇が有効になる要件
1 解雇一般の有効性
【解雇事由があること】
この点については懲戒解雇,普通解雇,整理解雇に分けて後述します。
【解雇自体が強行法規に違反しないこと】
強行法規というのは法令の規定のうち,それに反する当事者間の合意のあるなしに関わらず適用される規定のことをいいます。契約などによって内容を変更することができる任意規定と対になるものです。
解雇については解雇を行ってはいけないケースが具体的に複数の法令や条項で規定されており,それに違反して解雇を行うとその解雇が無効になるということですね。
さて解雇の禁止や制限が定められている場面について以下で触れていきます。
- 業務災害中による療養中の解雇の禁止(労働基準法19条1項 以下,労働基準法を「労基法」と略します。)
- 産前産後休業中の解雇の禁止(労基法19条1項)
- 国籍,信条,社会的身分による不利益取扱いとしての解雇の禁止(労基法3条),公民権行使を理由とする解雇の禁止(労基法7条)
- 不当労働行為としての解雇の禁止(労働組合法71条1号・4号)
- 性別を理由とする解雇,女性労働者の婚姻,妊娠,出産,産前産後休業等を理由とする解雇の禁止(男女雇用機会均等法6条4号・9条2項・3項・17条2項・18条2項)
- 育児休業,介護休業,この看護休暇,介護休暇,所定外労働の制限等の申出等を理由とする解雇の禁止(育児介護休業法10条・16条・16条の4・16条の7・18条の2・20条の2・23条の2等)
- 短時間労働者及び有期雇用労働者が,通常の労働者との間の待遇の相違の内容・理由等について説明を求めたことを理由とする解雇,都道府県労働局長に対して事業主との紛争解決の援助等を求めたことを理由とする解雇の禁止(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 14条3項・24条2項・25条2項)
- 労働者が法令に違反する事実があることを監督官庁に申告したことを理由とする解雇の禁止(労基法104条2項等)
- 個別的労働紛争について,労働者が都道府県労働局長に解決の援助を求めたこと,あっせん申請をしたことを理由とする解雇の禁止(個別的労働関係紛争の解決の促進に関する法律4条3項・5条2項)
- 公益通報をしたことを理由とする解雇の禁止(公益通報者保護法3条)
- 障害者であることを理由として,障碍者でない者と解雇について不当な差別的取扱いをすることの禁止(障害者の雇用の促進等に関する法律35条)
- 職場における労働者の就業環境を害する行為(パワハラ,セクハラ,マタハラ等)に関して事業主に相談を行ったこと等を理由とする解雇の禁止(労働施策総合推進法30条の2第2項)
このように解雇が制限される場面が多くありますので,これらの規定に反するような解雇はしてはいけません。
【解雇予告手当について】
使用者が労働者を解雇する場合には予告期間を30日置くこと,又は,即時解雇するには,30日分以上の平均賃金の支払いをしなくてはなりません(労基法20条)。
解雇予告手当を支払わずに解雇した結果,労働者が労基署に相談して解雇予告手当を支払うように指導されるというケースを10年上前には時々見かけたのですが,最近は解雇予告手当を支払わずに即時解雇している会社を見ることは,ほぼなくなりました。もし使用者が予告期間を置かず,予告手当の支払いもせずに労働者を解雇した場合,その解雇は有効でしょうか。
この点について判例は「解雇予告の除外事由がない限り,即時解雇としては効力が生じないが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後30日間の期間を経過するか,又は,通知の後に予告手当の支払をしたときは,そのいずれかの時から解雇の効力が生じると判断しています(最二小判 昭35・3・11)。
即時解雇を選択した場合,解雇予告手当の支払いが必要となりますが,支払いがないから解雇自体がすぐに無効となるわけではありません。
ただ,解雇予告手当すら支払わずに解雇するような会社が行った解雇は,他の要件を満たしていないことから解雇無効になるケースが極めて多いというのが私の認識です。
2 懲戒解雇の有効性
【懲戒解雇とは】
解雇には,懲戒解雇と普通解雇があり,普通解雇が民法627条1項に基づく解約の申入れであるのに対し,懲戒解雇は,企業秩序の違反に対して使用者によって課される一種の制裁罰として,使用者が有する懲戒権の発動によって行われるもので,有効要件が異なっています。このことから懲戒解雇と普通解雇,普通解雇に含まれる整理解雇という順番で有効要件について触れていこうと思います。
【有効要件について】
・根拠規定の存在
まず就業規則に懲戒解雇についての定めがあることが必要です。労働者と使用者が雇用契約を締結したことによって労働者は企業の秩序を遵守する義務を負いますが,その義務違反に対して使用者が懲戒権を行使するためには就業規則に懲戒の種別及び事由を明示的に定めている必要があるというのが最高裁の判例です(最三小判昭54・10・30・労判392号12頁 国鉄札幌運転区事件)。
懲戒解雇を行う場合には,まず会社の就業規則を確認して懲戒事由,懲戒解雇の規定を確認することが必須になります。
・懲戒処分時に処分の理由として使用者が認識していること
懲戒解雇当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情がない限りその懲戒の理由とされたものではないことが明らかであるから,その存在をもってその懲戒の有効性を根拠づけることができないとするのが判例です(最一小平8・9・26・労判708号31頁 山口観光事件)。
当初懲戒解雇の理由として挙げていた事情以外を後付けで実はそれも懲戒解雇の理由でしたということはできないのが原則ということですね。
・懲戒権濫用でないこと(相当性があること)
就業規則に懲戒事由の定めがあり,懲戒事由に該当する行為があったとしても,その行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認できない場合には,権利の濫用として無効となります(最二小判昭58・9・16・労判415号16頁 ダイハツ工業事件)。
この点については労働契約法15条でも定められています。懲戒解雇は懲戒として最も重い処分であり,処分を受ける労働者の再就職の障害にもなることから,当該行為の性質,態様、被処分者の勤務歴,その他の情状をしんしゃくして,解雇とするには重すぎるときには,懲戒解雇は無効になります。
すごく単純に言いますと,やった行為と比べて懲戒解雇という手段が重すぎると判断されると懲戒解雇は無効になるということですね。
懲戒解雇の相当性の判断においては,同じ規律に同じ程度に違反したときには処分は同じ程度であるべきであるという公平性を確保しなくてはならないとされています。従来,黙認してきた行為を理由として懲戒解雇することは基本的には相当性を欠くことになります。
さらに懲戒事由とされた行為が行われた後,長期間懲戒権が行使されていなかった場合には相当性を欠くとされる場合があるので注意が必要です。懲戒対象行為から7年以上経過した後に懲戒処分としての諭旨退職処分が下されたケースについて懲戒権の濫用として処分を無効とした最高裁判例があります(最二小平18・10・6 労判925号11頁 ネスレ日本事件)。
・懲戒の手続について
就業規則や労働協約上,懲戒解雇に先立ち,賞罰委員会への付議,組合との協議ないし労働者の弁明の機会の付与が要求されているときは,これらの手続を踏まないと懲戒解雇が無効とされることが多いです(東京地判平8・7・26 中央林間病院事件,東京高判平16・6・16 千代田学園事件)。ご注意ください。
3 普通解雇の有効性
【解雇事由】
基本的には就業規則に定められている解雇事由に該当することを理由として解雇することになります。
ここで問題になるのが就業規則に定められていない事由を理由とする解雇は許されないのかという点です。
結論から言いますと懲戒解雇の場面とは異なり,普通解雇にあたっての解雇事由は就業規則に定められている解雇事由以外のものでも問題ないとされています。
【解雇権濫用にあたらないか】
解雇事由があるとしても,普通解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当として是認できない場合には,権利の濫用として無効になります。解雇権濫用法理と呼ばれているもので判例の積み重ねによって確立したものであり,現在では現在では労働契約法16条で明文化されています。
労使間の紛争で解雇の有効性が争点となる場合,使用者の解雇が解雇権濫用に当たらないかどうかが中核の争点となり,解雇が無効と判断されるケースのほとんどが使用者の解雇は解雇権濫用に該当するものだと思います。
4 整理解雇の有効性
【整理解雇とは】
整理解雇とは,企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいいます。整理解雇は,労働者に落ち度がないにもかかわらず,使用者の経営上の理由により労働者を解雇するところに特徴があり,労働者に落ち度があるその他の解雇よりその有効性は厳格に判断されるべきであるとされています。
ちなみに整理解雇は普通解雇(民法627条1項)の一種であり,その有効性の判断にあたっては解雇権濫用法理が適用されます。
【整理解雇の4要素とは】
整理解雇がどのような場合に解雇権濫用にならず有効であるかについて4つの要件が必要であるというのが当初の裁判所の考え方でした。東洋酸素事件(東京高判昭54・10・29 労判330号71頁)の示した4要件は
- 人員削減の必要があること
- 使用者が解雇回避の努力をしたこと
- 被解雇者の選定に妥当性があること
- 手続の妥当性
です。
この裁判例が出された後,裁判所は比較的緩やかに①や②を判断するようになったことからこの4つについては4要件ではなく4要素であるといわれるようになりました。
この4つの総合判断によって解雇権濫用の有無を判断するというのが現在の多くの裁判例がとる判断手法になります。
今回は問題社員を解雇する場面ですので整理解雇について触れるのは,この程度にしておきます。
第2 問題社員を解雇する手順
1 懲戒解雇の場合
就業規則や労働協約に定められた手続をきちんと踏む必要があります。
就業規則等を確認して改廃すべき委員会等を開催し,労働者に弁明の機会を与えた上で行う必要があるということですね。
懲戒を行うに際しては懲戒事由とされる行為があったのかなかったのかを確認する作業が最も大変であり,特に問題社員の「問題」について客観証拠がない場合には懲戒自由該当行為の認定ができるかというハードルがあります。
また懲戒事由に該当する行為があったと判断できたとして懲戒解雇という処分が妥当かどうかを慎重に判断する必要があります。
その結果,懲戒解雇という手段を選択した場合には,労働者の帰責性が重いと判断した場面でしょうから,労基署で解雇予告除外認定を受けて解雇予告手当の支払いをしなくても済むようにする必要が生じることが多いでしょう。
懲戒解雇については解雇事由などを明記して労働者に対して文書にて解雇通知を内容証明郵便を使って送付する方が良いと思います。
2 普通解雇の場合
懲戒解雇相当と判断する場合にも普通解雇という手段を選択することがありますが,それはさておき普通解雇についてどのように進めるのかを書いていきましょう。
普通解雇をする場合でもギリギリまで退職勧奨を行って可能な限り退職で処理できる用努力していただきたいと思います。
また解雇事由が勤務成績・態度の不良である場合には解雇が無効とされるケースがほとんどですので,指導による改善について相当の努力をした上で改善が見られない場合にギリギリまで退職勧奨からの退職という方向での説得を行ったり,配転によって適性のある部署がないかを探るという努力をして,それでも功を奏しない場合に本当にやむを得ず解雇という選択肢をとることになります。
普通解雇の場合も解雇事由を明示して解雇通知を文書で送るというのが良いのではないかと思います。文書で送る場合には内容証明郵便を使うべきケースでしょう。
第3 問題社員の解雇について弁護士に依頼するメリット
解雇するタイミングで依頼するメリットは解雇理由について整理して労働者に伝えることができること,懲戒解雇の場合にはきちんと手続を踏んでいるがチェックできること,解雇予告だけはきちんと支払ったうえで解雇するといった当たり前の対応についてきちんとした助言が得られることでしょう。
解雇する前のタイミングで「問題社員がいて会社からいなくなって欲しいと思っているがどうしたらよいだろうか,本来は解雇したいところだが・・・」みたいな状態でご相談いただくと今後のことについてアドバイスを差し上げて,それに従っていただけるとすぐに解雇したいとうい希望に沿うことはできないかもしれませんが,様々な方法をご提案し,後に紛争になるリスクはかなり軽減できると思います。
解雇した後についてですが,その解雇に問題があるケースが多いので相談対応や案件としてお受けすることはできるものの,それ以降の被害を極力減らすといった撤退戦になることが多いのでご注意ください。もちろん解雇が有効であるケースもないわけではありませんし,撤退戦についても弁護士によって巧拙の差が大きいところかなと思いますので弁護士に相談,代理人としての業務を依頼する意味は大きいと考えます。
第4 当事務所がサポートできること
問題社員を解雇する場面では慎重な判断が必要になることは今回よりも前に作成したコラムでも再三述べてきたものです。どのようなタイプの問題社員であれ,退職で処理できるに越したことはないのですが,解雇すると決めたら解雇事由をどうするのかの検討,手続上の不備がないように気を付けるといった対応が必要です。
本来は問題社員について問題を把握したタイミングで今後どのように対処するのかについてご相談いただき,懲戒処分や配転,退職勧奨といった取りうる手段を全て行った上で最終手段として解雇を選択するというのがベストであり,かかる観点からすると顧問契約を締結していただき,平時よりご相談をいただき,その中で問題社員への対応について伴奏しながら解雇という意思決定までお付き合いするのが良いと考えております。
解雇することに決めたので解雇通知を代理人名で作成・発送してくださいという依頼はお引き受けかねますが,既に解雇してしまったけど労働者側から不当解雇であり地位確認とバックペイを求めるアクションを起こされて困っているという相談には対応しております。
この状態でご相談いただき,代理人として受任して対応を進める場合,かなり多くの割合で敗戦処理であり,どうやって負け幅(労働者への支払額等)を減らすという対応になることをご了承いただきたいと思います。
問題社員への対応は解雇してしまったら基本リスク最大のところからスタートすることになり,問題が長期化すればするほど経済的ダメージが大きくなること(バックペイが多くなる可能性が高いことから)から苦しい撤退戦を強いられるとご理解ください。
今回は問題社員の解雇について取り上げてまいりましたが,問題社員への対応はもちろん,労務問題全般や不動産取引紛争について多くの経験があり,多くの中小企業の顧問弁護士業務を担当している弁護士が所属している当事務所との顧問契約について多くの会社経営者の皆様に興味を持っていただけると幸いです。
文責 弁護士 浜田 諭