会社の備品を無断で持って帰って返さない社員に対する懲戒処分について解説

 

浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,

相談に来られた運送会社S社のK社長,今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。

 

1 ドライバーによる会社備品(タイヤ)持ち出しの発覚

 

K社長

「最近,当社のドライバーが当社が所有する車のタイヤを無断で持ち帰っていたことが発覚しました。」

 

浜ちゃん先生

「持ち帰ったタイヤなのですが,持ち帰った後,どうしていたんですか?」

 

K社長

「ドライバーの実の兄が所有する車のタイヤと交換されていたようです。」

 

浜ちゃん先生

「そのまま,実兄の方がそのタイヤを装着した車を運転していたんですよね?」

 

K社長

「そうです。ですので今さらタイヤを返してもらっても困ります。」

 

浜ちゃん先生

「今回のお悩みは,そのドライバーにどのような対応をすべきかということですね?」

 

K社長

「そうなんです。他のドライバーへの示しもつかないので懲戒解雇しようと思っているんですが,

 それでよいのでしょうか?」

 

2 ドライバーが行った行為の評価

 

 

浜ちゃん先生

「まずは,ドライバーが行った貴社のタイヤの無断持ち出しをどう評価すべきかを考えていきましょう。

 タイヤですが,ドライバーが乗っていたトラックのタイヤではないですね?」

 

K社長

「そうです。当社の倉庫に保管されていたものです。」

 

浜ちゃん先生

「倉庫の鍵をそのドライバーは持っていたのですか?」

 

K社長

「普段は鍵をかけていませんし,ドライバーは自分が乗るトラックに装着するタイヤを倉庫から

 取り出すことができるよう自由に出入りできる状態 にありました。」

 

浜ちゃん先生

「なるほど。ドライバーの行為は刑法上の窃盗罪(刑法235条)か横領罪(刑法252条)

 のいずれかに当たりそうですね。貴社としては刑事罰を求めたいというご意向はあるのでしょうか?」

 

 

K社長

「当社のために頑張ってくれていたドライバーなので刑事責任まで負ってくれる必要はないと思います。

 とはいえ,今回のことで信頼して仕事を任せられないなと思っていますので,

 会社から去って欲しいと思っています。」

 

浜ちゃん先生

「そこで懲戒解雇を検討しているということですね?」

 

K社長

「そうですね。」

 

浜ちゃん先生

「ドライバーが持ち帰ったタイヤの本数と1本当たりの単価を教えてください。」

 

K社長

「4本で1本あたり2万円になりますので8万円の被害かと思います。」

 

浜ちゃん先生

「今回以外に問題のドライバーが貴社のタイヤを持ち帰った事実はありますか?」

 

K社長

「把握できていません。」

 

浜ちゃん先生

「そうすると把握できているのは1回ということになりますね。」

 

K社長

「そうですね。」

 

浜ちゃん先生

「今まで伺った事情を前提に問題のドライバーに対する懲戒解雇という手段が妥当かどうかを考えていきましょう。

 まず先ほど申し上げましたようにドライバーの行為は

 刑事罰の対象になる可能性のある行為であり懲戒処分を下すべきだと思います。」

 

K社長

「それはそうですね。問題は懲戒処分として懲戒解雇を選択するのが適切かどうかということですね?」

 

浜ちゃん先生

「そうです。懲戒処分のうち,どの種類の懲戒処分を下すのかについて,

 本件では持ち帰った備品の価値,量,回数,持ち帰り態様等を考慮して選択することになります。」

 

 

K社長

「今回のケースの評価はどうなりますか?」

 

浜ちゃん先生

「備品といってもボールペンや鉛筆といったものではなくタイヤであり,備品の価値は高いと評価すべきです。

 また4本というのは大量とまでは評価されませんが,軽く評価はできないと思います。」

 

K社長

「残りの点はどうですか?」

 

浜ちゃん先生

「今回の件以外に持ち出しが把握できていないとすると1回であるという前提で考えることになります。

 また普段から出入りしている倉庫からの持ち出しということですので

 持ち帰り態様について重いとまでは評価できないと思います。」

 

K社長

「結論的にはどうなるでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

懲戒解雇が有効と評価される可能性もありますが,懲戒解雇という手段を選択するのではなく

 不祥事を踏まえて退職勧奨をして自発的に退職していただく方向で対応してはいかがかと思います。」

 

K社長

「退職していただけない場合にはどうしましょうか?」

 

浜ちゃん先生

「本来は懲戒解雇相当と評価したいところでしょうが,普通解雇するということも考えられますね。」

 

K社長

「懲戒解雇の方が普通解雇よりもハードルが高いので,

 効力を争われた場合のリスクを考えて普通解雇を選択するという理解でよろしいですか?」

 

浜ちゃん先生

「そのとおりです。よく勉強されていますね。

 あとは持ち出されたタイヤについてドライバーに損害賠償を求めることも可能ですね。」

 

K社長

「本件はタイヤの持ち出しだったのですが,

 鉛筆とかボールペンといった備品を無断で持ち出して返さない社員にはどのような対処をすべきですか?」

 

 

浜ちゃん先生

「もちろん持ち出した鉛筆やボールペンの個数や持ち出し頻度にもよりますが,

 その程度の価値の備品持ち出しの場合には

 懲戒処分を下すこと自体が懲戒権の濫用(労働契約法15条)と評価されて無効になる可能性が高いですね。

 

 持ち出した社員に対して,まずは社内のルールに従って会社の備品を使用するように

 注意・指導するという対応を行い,それでも持ち出しを続ける場合に懲戒処分を下すことを検討するということに  

 なると思います。」

 

K社長

「そうなんですね。わかりました。今日はありがとうございました。」

 

浜ちゃん先生

「いえいえ,お付き合いいただきありがとうございました。お疲れさまでした。」

 

最後に

☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする

 中小企業の顧問業務,宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,

 今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。

 このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!

執筆者  弁護士 浜田 諭

 

追伸 

この度,私,濵田は経営法曹会議の会員となりました。これは使用者側の労働事件を扱う弁護士の団体になります。

(経営法曹会議:http://www.keieihoso.gr.jp/)

今までは労使双方からの労使紛争にかかわる相談・案件対応にあたっておりましたが,

専ら使用者側(雇用主である会社側)の代理人として労使紛争に関わっていくことになりました。

引き続きよろしくお願いいたします。

 

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