「トラック運送業における労務管理」その35-運送業における労働時間に関する違反事例とは?違反時の罰則等について解説

7月に更新して以来,約3か月分の更新になります。なお,今回お話しする内容は以下の目次のとおりです。

<目 次>

第1 運送業における労働時間規制

第2 運送業者が労働時間に関する違反をした場合の罰則等

第3 運送業での労働基準法違反事例

 1 労働基準法違反事例の件数と内容

 2 運送業の過去の違反事例

第4 改善基準告示違反・労働基準法違反にならない為に確認すべきポイント

 1 労働基準法と改善基準告示

 2 拘束時間と休息期間

 3 運転時間

 4 休日

 5 手待ち時間(荷待ち時間)

第5 当事務所が提供できるサポート

終わりに

 

それでは早速内容に入っていきましょう!

 

第1 運送業における労働時間規制

1 労基法による規制

(1)法定労働時間

運送業における労働時間規制についてですが,まず基本的には労働基準法による労働時間規制に服するというのが大前提です。まず法定労働時間は1週40時間を超えてはいけませんし(労基法32条1項),1日について8時間を超えて労働させてはならない(労基法32条2項)というルールが適用されるのは他の業種と何ら変わるところはありません。

 

例えば,1日の所定労働時間が8時間以内の事業場において8時間を超えて労働が行われる場合には36協定の締結と届出(労基法36条)が必要ですし,かつ8時間を超える労働時間については割増賃金を支払う義務があります。

実際の労働時間が法定労働時間を超える場合には,時間外労働の要件を満たさないかぎり,罰則の適用があり,かつ割増賃金の支払義務が生じることになります。

具体的な罰則の内容については第2のところで触れます。

 

(2)36協定による時間外・休日労働について

先ほど述べましたように36協定を労働者側と締結して行政官庁に届け出ることによって,法定労働時間を超えて協定で定めたその時間数・日数の範囲内において時間外・休日労働をさせることができることになります。正確には労働基準法の労働時間規制に違反した場合のペナルティを免れる(この効力を「免罰的効力」といいます)ことになります。

 

この36協定で定めることができる時間外労働の時間について2018年6月に成立した労基法改正(働き方改革の一環として行われたものです)によって罰則付きの上限規制が設けられました。この改正法は既に施行されています(大企業は2019年4月1日から,中小企業は2020年4月1日から)。上限規制については原則として月45時間・年360時間となり,臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができなくなりました。

 

具体的な内容については過去のコラムにおいても取り上げておりますので厚労省作成のリーフレットのイメージ図を引用するにとどめます。以下,引用している図は厚労省作成のリーフレットからの引用になります。

   なお,時間外労働の上限について自動車運転者について5年間の適用猶予が行われておりますが,この点も厚労省のリーフレットから図を引用します。

 

 2 運送業独自の規制

トラック運転者の労働条件の改善を図るため,労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)が規定されています。

労働時間だけの改善基準ではないのですが,

◆拘束時間・休息時間

◆拘束時間の限度=休息期間の確保

◆運転時間の限度

◆時間外労働及び休日労働の限度

◆特例

といったことが定められており,これに違反すると行政処分の対象になります(貨物自動車運送事業輸送安全規則 第3条第4項)。この改善基準の具体的な内容については後述します。

 

第2 運送業者が労働時間に関する違反をした場合の罰則等

1 労働基準法違反

法定労働時間(週に40時間 1日に8時間)を超えて労働者に労働させると労働基準法32条に違反することになりますので6か月以内の懲役又は30万円以下の罰金に処するという定めがあります(労基法119条1号)。

同様の刑罰が時間外,休日及び深夜の割増賃金を労働者に支払わなかった場合(労基法37条参照)にも同様の刑罰が科されるという定めがあります(労基法119条1号)。刑事罰の定めがあっても,実際に刑罰を科されることはないだろうというのは甘い考えです。

2 改善基準告示違反

一般貨物自動車運送事業者は,「事業用自動車の運転者の適切な勤務時間及び乗務時間の設定その他事業用自動車の運転者の過労運転を防止するために必要な事項」等について「国土交通省令で定める基準を遵守しなければならない」(貨物自動車運送事業法 第17条1項1号)とされています。

 

これを受けて,貨物自動車運送事業者は,休憩又は睡眠のための時間及び勤務が終了した後の休息のための時間が十分に確保されるように,国土交通大臣が告示で定める基準に従って,運転者の勤務時間及び乗務時間を定め,当該運転者にこれらを遵守させなければならない(貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条4項)とされており,これに違反すると行政処分を受けたり事業者名を公表されることがあります。

この公表は会社のイメージダウンにつながり,コンプライアンスを重視する荷主との取引が打ち切られるリスクも生じます。

 

第3 運送業等での労働基準法違反事例

1 労働基準法違反事例の件数と内容

以下は運送業に限った統計ではありませんが,運送業についても同じような傾向が現れると思いますのでご紹介します。

 

厚生労働省が平成25(2013年)版以降の「労働基準監督年報」をウェブサイト上で公表していますが,これによると違反件数が多い順から労働時間(一般)(労基法32条・40条),割増賃金(37条)となっており労働基準法の違反事例として最も多いのが労働時間,割増賃金に関する規定違反という結果になっているようです。なお厚生労働省労働基準局監督課が令和4年9月30日に公表した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」(令和3年9月1日~令和4年8月31日)によると宮崎労働局所管の企業の公表事例6件のうち1件が労働時間32条(労働時間)違反です。

2 運送業の過去の違反事例

労働基準法違反の事例について運送業のみを取り上げた統計を見つけられなかったのですが,公表されている運送事業者に下された行政処分の内容から乗務時間等の基準の遵守違反を理由とするものがどのくらいあるのかを拾うことが出来ました。行政処分を受けた運送事業者のうち宮崎運輸局が所管する事業者の処分事例が30事業者でそのうち24件に「乗務時間等の基準」の遵守違反が含まれていました。

 

第4 改善基準告示違反・労働基準法違反にならない為に確認すべきポイント

1 労働基準法と改善基準告示

運送業には他の事業者と同様に労働基準法が適用されて、その規制に服するという面と運送業独自に設定されている改善基準告示を遵守しないと行政指導や処分の対象となり事業者名が公表されるリスクがあるという面があります。これは先ほど述べた通りです。

2 拘束時間と休息期間

改善基準告示は,拘束時間,休息期間について定義しています。

 

拘束時間の限度=休息期間の確保

1日の拘束時間は13時間以内を基本とし,これを延長する場合であっても16時間が限度です。1日の休息期間は継続8時間以上必要です。この点について厚労省作成のリーフレットから図を引用します。

 

1週間における1日の拘束時間延長の回数について,15時間を超える回数は1週間につき2回が限度になります。

下の図は,この限度を守っている例です。

 

そして限度を守っていないと評価される例が以下のようなものです。

3 運転時間

1日の運転時間は2日(始業時刻から起算して48時間)平均で9時間が限度です。

 

2週間を平均した1週間当たりの運転時間は44時間が限度です。

連続運転時間は4時間が限度であり,運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に運転を中断して30分以上の休憩等を確保しなければなりません。そして,その休憩時間は少なくとも1回につき10分以上とうえで分割することができるとされています。

 4 休日

休日労働は2週間に1回が限度です。

 

5 手待ち時間

1から4は基準告示違反がないようにチェックすべきことです。運行管理者がこの点についてはきちんとコントロールすることになるのですが,これ以外に手待ち時間の問題があります。

 

労働時間は使用者の指揮命令下にある時間ですので,トラックから降りて荷積みや荷下ろしをしていなくて時間であっても荷主や事業主の指示があれば労働しなくてはいけない状態であれば手待ち時間となり,労働時間と評価され賃金の支払い義務がある時間と評価されます。基準告示をきちんと守りつつ,手待ち時間と評価される時間を減らして潜在的な未払い賃金が発生しないように労務管理をする必要があるという点で運送業は非常に厳しい労務管理を強いられます。特に手待ちと評価される時間は運送業者だけではコントロールできず,荷主の理解と協力がないと減らすことが難しいというのが悩ましいところです。

 

第5 当事務所が提供できるサポート

労働時間管理について最新の法改正に基き,運送業を経営されている皆様の会社の実情に応じた労働時間管理について一緒に考えて立案し,それを実行するお手伝いをいたします。就業規則の改訂などのハード面のアドバイスと実際に存在している制度をどのように機能させるのかというソフト面でのアドバイスも提供いたします。これは顧問契約を前提としたサービスとなります。

また,現在,労働時間管理にお悩みの運送業の皆様からの個別の相談にも対応しております。このようなサービスに興味をお持ちの運送業の経営者の皆様からのお問い合わせをお待ちしております。

運送業・物流業の方向けの、弊所サービス詳細はこちらからご確認ください。

 

【運送業・物流業の方向け】サービス詳細

 

終わりに

当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。

 

このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!

 

<執筆者  弁護士 浜田 諭>

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