【コラム】新型コロナウィルスと労務管理①
普段から労働問題について顧問弁護士である浜ちゃんに相談しているK社のY社長,
新型コロナウィルスの感染が広がる中,発熱などの症状を示した従業員への対応について浜ちゃんに相談しています。
Y社長
「コロナウィルス,大変なことになっていますね。」
浜ちゃん先生
「そうですね。とはいえ淡々と出来ることをやっていくしかないですね。」
Y社長
「そうですね。今日,社員の1人が発熱などの症状を示していてとりあえず今日は帰宅させたのですが・・・熱が下がったら働きますと言って帰っていったんですよ~。」
浜ちゃん先生
「会社としてはその社員さんがコロナウィルスに感染していたらと心配になりますよね。出社した結果,他の従業員に感染したら・・・と考えるとゾッとしますね。」
Y社長
「そうですね。とりあえず会社としてはしばらく業務命令として自宅待機をさせようと思っているのですが,その間,当社は社員に給与を支払わなくてはいけないんでしょうか?」
浜ちゃん先生
「欠勤中の賃金の取り扱いについてその社員の方と話し合って支払いの有無や支払う場合の金額について折り合いがつけば,それに従って払っていただくというのが良いと思いますが・・・」
Y社長
「折り合いが付かない場合が問題なんですよ。労働基準法に休業手当ってあるじゃないですか?あれを支払わなくてはいけないような気がするんですが・・」
浜ちゃん先生
「良くご存知ですねぇ。「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合においては平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなくてはいけません。」
Y社長
「コロナウィルスの感染蔓延は使用者の責任じゃないですよね?地震みたいな天災だと思うんですが・・・」
浜ちゃん先生
「そうですね。不可抗力による休業の場合には「使用者の責めに帰すべき事由による休業」には当たらないというが厚生労働省の考え方です。」
Y社長
「その「不可抗力」とは具体的にどのように定義づけられるのですか?」
浜ちゃん先生
「まず①その原因が事業の外部により発生した事故であることです。」
Y社長
「コロナウィルスは①を満たしそうですね?」
浜ちゃん先生
「そうですね。次に②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることという要件が必要です。」
Y社長
「コロナウィルスの蔓延という現状は②を満たしますか?」
浜ちゃん先生
「従業員に一定の諸症状の確認等がされて,その結果として,使用者として出社拒否が必要と判断して自宅待機命令が出された場合には,原則として使用者の責めに帰すべき事由はないと判断されると思います。」
Y社長
「前回までテレワークの話をされていましたが,テレワーク勤務によって従業員の就労が可能な場合はどうですか?」
浜ちゃん先生
「テレワークでの自宅勤務による就労が可能な場合においては,それを検討すべきです。
テレワークでの自宅勤務なども検討せずに従業員に自宅待機命令を出したような場合には使用者が休業の回避について通常行うべき最大限の努力を尽くしていないということで休業手当の支払いが必要になることがあり得ます。ご注意ください。」
Y社長
「コロナウィルスについての相談・受診の目安ってどのようなものでしたかね?」
浜ちゃん先生
「まず風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならない場合を含みます)ですね。」
Y社長
「他にはないですか?」
浜ちゃん先生
「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合
高齢者をはじめ,基礎疾患(糖尿病,心不全,呼吸器疾患がある方や透析を受けている方,免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方ですね・)
Y社長
「それ以外では?」
浜ちゃん先生
「風邪の症状や37.5度以上の発熱が2日程度続く場合で,強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合ですね。」
Y社長
「こういった症状があるという従業員はどこに相談すればよいんでしょうか?」
浜ちゃん先生
「最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」に相談するよう従業員の方へ伝えてください。」
Y社長
「この相談の結果を踏まえても,職務の継続が可能と判断された場合でも周りの従業員が不安がりますので休業させたいのですが・・・この場合はどうなりますか?」
浜ちゃん先生
「使用者の自主的な判断で休業させることになりますので「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に当てはまり,休業手当を支払う必要があると考えます。」
Y社長
「従業員が発熱などの症状があるため自主的に休んでいる場合には休業手当の支払いが必要ですか?」
浜ちゃん先生
「通常の病欠と同様に扱い,休業手当を支払う必要はありません。病気休暇制度があればその活用が考えられるケースですね。」
Y社長
「それでは実際に従業員が新型コロナウィルスに感染したために休業させる場合には休業手当はどのようにすべきですか?」
浜ちゃん先生
「令和2年2月1日付で,新型コロナウィルス感染症が指定感染症として定められましたので,従業員が新型コロナウィルスに感染していることが確認された場合,感染症法に基づき,都道府県知事が,その従業員に対して就業制限(同法18条)や入院の勧告等(同法19条)を行うことができることになります。」
Y社長
「そうするとどうなるのですか?」
浜ちゃん先生
「従業員が新型コロナウィルスに感染しており,都道府県知事が行う就業制限により従業員が休業する場合には,一般的には先ほど述べた「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので,休業手当を支払う必要はありません。」
Y社長
「そうすると従業員がかわいそうですね。」
浜ちゃん先生
「でも従業員は被用者保険に加入しておられますから要件を満たせば傷病手当金の支給を受けることができますよ。」
Y社長
「具体的にはどのような支給を受けることができるんですか?」
浜ちゃん先生
「療養のために労務に服すること(働くこと)ができなくなった日から起算して
3日を経過した日から,直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について
支給を受けることができます。」
Y社長
「わかりました。次回も新型コロナウィルスと労務管理について話を聞かせてください。」
浜ちゃん先生
「了解しました。次回もよろしくお願いいたします。」
新型コロナウィルスの蔓延によって労務管理上の悩みをお持ちの事業主の方も多いのではないでしょうか。また日頃の労務管理においても悩みをお持ちの事業主の方も少なくないと思います。
常日頃からきちんとした労務管理を行うことは事業を維持・発展させていくためにも重要なことです。社会保険労務士の先生方に加えて弁護士を顧問として据えることによって労務管理により万全な体制を敷くことができると思われますし,労務問題以外の場面でも困ったときにちょっと相談できる顧問弁護士がいるというのは心強いとおっしゃっていただいている経営者の方も多くおられます。
当事務所に顧問弁護士を依頼することに興味をお持ちの事業主の方,お気軽に当事務所までお問い合わせください。
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