「トラック運送業における労務管理」その24-営業所長が管理監督者と評価されるか?-

浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長,

今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。

 

1 新しい営業所の開設と社員の営業所長への配転

 

 

K社長

「当社は新しい営業所を開設することになりまして,

 信頼できる本社の社員Xさんを新しい営業所の所長にすることにしました。」

 

浜ちゃん先生

「新営業所の開設おめでとうございます!事業が上手くいっている証拠ですね。」

 

K社長

「これをきっかけにXさんは管理監督者ということで残業代を支払わなくてもいいのかなと思っているのです

 が・・・」

 

浜ちゃん先生

「そうなんですねぇ。会社が特定の社員について管理監督者であると思っているケースのうち

 実際に管理監督者と評価されるケースの割合はかなり低いんですよ。」

 

K社長

「そうなんですね。それでは今日は管理監督者について教えてください。」

 

2 管理監督者とは?

 

 

浜ちゃん先生

「労働基準法41条は

 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」(同条2号)

 には労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用されないと定めています。

 この管理若しくは管理の地位にある者が監督者です。」

 

K社長

「どうして管理監督者には労働時間等の条文が適用されないのですか?」

 

浜ちゃん先生

「事業主に代わって労務管理を行う地位にあり,労働者の労働時間を決定し,

 労働時間に従った労働者の作業を監督する者は,労働時間の管理・監督権限を持っている結果,

 自分の労働時間は自分の裁量で決めることができ,かつその地位に応じた高い待遇を受けられることから

 労働時間の規制を適用するのが不適当とされたといわれています(菅野労働法第12版 491頁)。」

 

K社長

「それでは,ある人が管理監督者であるかどうかは,どのような基準で判断すればよいのでしょうか?

 例えば本件のように営業所長という名称の職位にあれば管理監督者といえるのでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「名称にとらわれず,実態に即して判断すべきとされています。裁判所もそういう判断手法をとりますね。」

 

 

K社長

「もう少し具体的な基準を教えてください。」

 

浜ちゃん先生

①事業主の経営に関する決定に参画し,労務管理に関する指揮監督権限を認められていること,

 ②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること,

 ③賃金体系を中心とした処遇(基本給,手当,賞与)が一般の従業員と比較して,その地位と権限にふさわしいも

  のといえるか

 という3つの基準で判断している裁判例が多いですね

 (育英舎事件 札幌地裁平成14年4月18日判決 労働判例839号58頁等)。」

 

K社長

「①権限の問題②時間管理の問題③特別の待遇という3つの基準で判断しているということですか?」

 

 

浜ちゃん先生

「そのような理解で大丈夫です。」

 

3 新営業所長は管理監督者か?

 

K社長

「それでは新しい営業所の所長が管理監督者にあたるかどうかを教えてください。」

 

浜ちゃん先生

「①権限の点について質問しますね。

 営業所長のXさんですが,営業所で働く社員についての採用の権限はありますか?」

 

K社長

「採用は本社で行いますので営業所単位での採用は考えていないです。

 本社採用をした社員のうち一定数を新しい営業所に配属するイメージです。採用権限はないです。」

 

浜ちゃん先生

「営業所に配属された社員の人事の権限はありますか?」

 

K社長

「配属された社員の評価は営業所でやってもらいますが具体的な人事については本社の人事部で行います。

 その意味では営業所長に人事の権限はないですね。」

 

浜ちゃん先生

「そうですか。それでは②時間管理の点について伺います。

 営業所長自身の労働時間はどのように管理されますか?」

 

K社長

「今までと同様タイムカードを打刻してもらいます。」

 

 

浜ちゃん先生

欠勤・遅刻による賃金の減額は想定されていますか?」

 

K社長

「そこは他の社員と特別扱いはできないので,欠勤・遅刻による賃金の減額はしようと思っています。」

 

浜ちゃん先生

「営業所長の待遇ですが,③特別な待遇といえるものがありますか?」

 

K社長

「基本給の他に月に10万円の職責手当を支給しようと思っています。

 基本給や各種手当と合わせると年収にして450万円くらいになります。」

 

浜ちゃん先生

「今まで伺ったところからすると

 ③特別な待遇がないとはいえませんが(現在想定されている待遇の内容は不十分ではないかと思います),

 ①権限の点でも②時間管理の点でも管理監督者とは評価できないと思います。」

 

K社長

「わかりました。Xさんは営業所長にはしますが,しばらくは今まで通り労務管理をして,

 職責に見合うパフォーマンスを発揮するようになったら権限,時間管理,待遇について

 管理監督者と評価されるような状態に変えるのを検討します。」

 

浜ちゃん先生

「今日の話を理解していただいてよかったです。」

 

K社長

「いえいえ勉強になりました。今日はありがとうございました。」

 

浜ちゃん先生

「こちらこそお付き合いいただきありがとうございました。お疲れさまでした。」

 

最後に

 

☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,宅建業や不動産取引にかかわる紛争 

 の解決に注力して参りましたが,

 今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。

 このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!

 

執筆者  弁護士 浜田 諭

 

 

 

 

 

 

 

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