トラック運送業における労務管理 その14-妻との離婚問題を抱えたドライバーから給与の現金支給を求められているケース-
浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長。
今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。
1.妻との離婚問題を抱えたドライバーからの依頼
K社長
「当社のドライバーで現在,妻との離婚問題を抱えている者がいるのですが・・」
浜ちゃん先生
「結婚する夫婦の何割かは離婚するわけですから
ドライバーの方にそういった方がおられるというのは仕方ないですねぇ。
それはそうと,そのドライバーの方に何か問題が生じているのですか?」
K社長
「そのドライバーから給与を指定預金口座への送金ではなく現金支給に変えてほしいとの依頼があったんです。」
浜ちゃん先生
「給与が送金される預金口座の通帳やキャッシュカードを妻が管理していると
自分の手元で現金が管理できないことから現金支給に変えて欲しいんでしょうねぇ。」
K社長
「そうだと思うんですが,ドライバーの要望に応じて現金支給に変えてよいのかどうか迷っていまして
アドバイスを頂けないでしょうか?」
浜ちゃん先生
「この点は賃金の支払いの原則にさかのぼって考える必要がありますね。」
2.賃金支払いの原則はどうなっているか
浜ちゃん先生
「賃金の支払いには4つの原則があります。」
(1)通貨払いの原則
(2)直接払いの原則
(3)全額払いの原則
(4)毎月1回以上一定期日払いの原則
K社長
「今回のドライバーの相談はどの原則と関わるのですか?」
浜ちゃん先生
「(1)の通貨払いの原則です。
賃金は「通貨」で支払われなければならない(労働基準法24条1項)という原則で,
賃金については現金での支給が原則形態となります。」
K社長
「労働者が指定する預金口座への送金という手段は例外ということになるんですね?」
浜ちゃん先生
「そうですね。労働基準法24条1項但書に
「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」は
例外的に許容されるとあります。そして,「労働者の同意を得た場合には」
「当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み」によって
支払うことができるとされています(労働基準法施行規則第7条の2の1号)。」
K社長
「当たり前のように賃金を送金で支払っていましたが,
これは労働者の同意の元に例外的に許容されているものだったんですねぇ。」
浜ちゃん先生
「今回のケースだと労働者であるドライバーから現金支給への切り替えを要求されています。
これは当初の送金による支払いの同意を撤回する趣旨だと評価できます。」
K社長
「そうすると原則に戻って現金支給しなくはいけないということになりますね。」
浜ちゃん先生
「そうですね。原則と例外をしっかり押さえておくと答えが出せますね。」
3.ドライバーの妻から直接妻に支払うよう申し入れがあった場合
K社長
「あの後,ドライバーへの給与を現金払いに変えたのですが,今度はドライバーの妻の方から
家計の管理をしている自分の方へ直接支払って欲しいとの申し入れがありました。
支払ってはいけないというのは感覚的にわかるのですが,
自分の中でその根拠がきちんと整理できないので教えてもらっていいですか?」
浜ちゃん先生
「先日お話しした賃金支払いの原則の(2)直接払いの原則と関わる問題です。
直接払いの原則とは,賃金は,直接労働者に支払わなければならない(労基法24条1項)というものです。
貴社はドライバーに対して直接賃金を支払わなくてはなりませんから,
妻への支払いをすることはできないのが原則です。
妻が夫であるドライバーの代理人として受け取ることもできません。」
K社長
「原則ということですから妻がドライバーに代わって受け取ることができる場合もあるということですか?」
浜ちゃん先生
「例えば,病気で入院中で身動きが取れないドライバーに代わって妻が給与を受け取りに来る場合の妻などの
「使者」に対する賃金の支払いは適法とされています(昭63・3・14基発150号)。」
K社長
「本件の場合,ドライバーには身動きが取れない事情もありませんし,
ドライバーと妻の間には離婚問題が生じているので妻がドライバーの意向に従って
「使者」として給与を受け取りに来ることは考えづらいですね。」
浜ちゃん先生
「そのとおりです。本件では妻からの要望があっても妻に対しては支払わず,
原則通りドライバーに対して直接支払えばいいということですね。」
K社長
「今日も勉強になりました。今後ともよろしくお願いいたします。」
浜ちゃん先生
「こちらこそ,よろしくお願いいたします。」
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さいごに
☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務
宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,
今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。
このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!
執筆者 弁護士 浜田 諭
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