【運送事業者必見】出来高給を採る場合の固定額最低保障給を解説
浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長。
今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。
歩合制の割合を高める際に注意すべきことは?
K社長
「当社は成果に応じて給料を支払う方が無駄がないこと,働いた分だけ給料に反映される
出来高の部分を上げた方がモチベーションの向上につながるのではないかと考えています。」
浜ちゃん先生
「確かにそういう考え方もできますね。
それでその考えのもとに何をされようとしているのでしょうか?」
K社長
「トラックドライバーの賃金に占める歩合給の割合を高める方向で考えています。」
浜ちゃん先生
「なるほど。」
K社長
「しかし,労働組合の方から労基法でも保障給に関する規定を置いているし,基本給の比率を
6割未満に引き下げることは許されないのではないかとの反対意見が出されています。
賃金総額に占める基本給の比率を6割未満にするのは許されないのでしょうか?」
労働基準法27条とその解釈
浜ちゃん先生
「ご質問の点について回答する前提としてまず労組が主張している労働基準法の条文から確認していきましょう。
労働基準法27条に
「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については
労働時間に応じ一定額の賃金の保証をしなければならない」
とあります。」
K社長
「なるほど,労働時間に応じてですね。
ちなみに労組が主張している6割の根拠になっているものは何ですか?」
浜ちゃん先生
「厚生労働省労働基準局編の「労働基準法」に
平均賃金の100分の60程度を保障するのが妥当であるとの解釈が示されており,
これが根拠になっていると思われます。」
K社長
「そうなんですねぇ。この解釈に従った運用が好ましいのでしょうか?」
浜ちゃん先生
「好ましいと思います。」
基本給と保障給の位置づけは?
K社長
「当社の場合には固定の基本給に加えて出来高部分に最低の保障給を支払っているのですが,
この場合,基本給だけで賃金総額の6割以上にする必要があるのでしょうか?」
浜ちゃん先生
「基本給という固定給部分と保障給と合計額をもって,保障給とすることは可能ですし,
賃金構成からみて固定給が概ね6割程度以上を占めている場合には,本条(労基法27条)の
「請負制で使用する」には該当しない(昭22・9・13発基17号)とされております。
そうすると基本給だけで賃金総額の6割以上にする必要まではないと思います。
最初のご質問に答えますと
賃金総額における基本給の比率を6割未満にすることは許されると思いますが,
6割を大幅に下回るのは好ましくありません。」
改善基準の解釈例規はどうなっているのか
K社長
「うろ覚えで申しわけないのですが「自動車運転者の労働時間等のための改善のための基準」についても
何か通達が出ていた気がするのですが・・・」
浜ちゃん先生
「よくご存じですね。確かに「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の
解釈例規(平元・3・1 基発93号)において
「歩合給制が採用されている場合には,労働時間に応じ,固定給与と併せて
通常の賃金の6割以上の賃金が保障されているよう保障給を定める」よう要請しています。」
K社長
「もう少しわかりやすく説明してください。」
浜ちゃん先生
「以下のような計算式が成り立つよう要請しているということです。」
1時間当たりの保障給≧通常の賃金÷算定期間における通常の労働時間×0.6
K社長
「ここにいう「通常の賃金」とは何を指すのですか?」
浜ちゃん先生
「ここにいう「通常の賃金」とは,各人の標準的能率で
「通常の労働時間(勤務割に組み込まれている時間外労働及び休日労働の時間を含む)」を
全て勤務した場合に得られる賃金額とされています。」
K社長
「この各人の標準的能率で云々って面倒くさいですね。」
浜ちゃん先生
「そうですよねぇ。このような理屈上の数値を用いずに,
「各人ごとに過去3カ月程度の賃金総額を総労働時間で除した(割った)金額の6割」
とすることも可能ですし,実務上もこうした方がわかりやすいですよ。」
K社長
「そうですね。当社においてどのようにしているのかを確認しておきます。
今日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします。」
浜ちゃん先生
「いえいえ,こちらこそよろしくお願いいたします。」
さいごに
当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,
宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,
今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。
このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,
よろしくお願いいたします!
執筆者 弁護士 浜田 諭
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