【コラム】中小企業のコンプライアンス経営のために!会社の基本的なルール(株主総会・取締役・監査役)について②
浜ちゃんに不動産トラブルをめぐる訴訟の解決について依頼したことのある中小
企業T社の代表者のM社長。
T社はかつてパチンコ店を複数経営していましたが,現在は自社が所有する不動
産の賃料収入のみが収益源である会社です。
発行済み株式総数は1000株,M社長が700株,M社長の実兄,実姉,実弟,が各100株ずつを保有しています。
T社は毎年株主総会を開催していますが,今回は株主総会の招集についての相談
に来られました。
浜ちゃん先生
「お久しぶりです。あの裁判は無事に解決して良かったですね。今日はどんな相談でしょうか?」
M社長
「私が代表取締役をしている当社は,私が全株式の7割を持っており,残りの3
割について私の実兄,実姉,実弟が各々1割ずつを保有しています。」
浜ちゃん先生
「そうすると貴社の発行済み株式総数が1000株ですから,社長が700株,ご兄弟3名が各々100株ずつを持っているということになりますね。」
M社長
「そうです。」
浜ちゃん先生
「貴社は株主総会を年に1度開催しているんでしたよね?」
M社長
「そうです。総会を開催しているのですが,以前から私の兄弟たちは株主総会に呼んでも出てきてくれないんです。T社の経営に興味がないんでしょうし,実弟については県外に住んでますから面倒くさいんだと思います。」
実弟は県外居住
浜ちゃん先生
「今はご兄弟に株主総会を開催する旨の連絡(招集)をしているんですか?」
M社長
「宮崎県内に住んでいる実兄,実姉には電話で連絡をするんですが,実弟についてはどうせ連絡しても来ないだろうという判断で連絡しない状態になっています。」
浜ちゃん先生
「それは問題ですね。」
M社長
「どう問題なんですか?教えてください。」
浜ちゃん先生
「株主総会を招集するには,株主総会の日の一定の期間前までに,株主に対して通知をしなければなりません。」
M社長
「一定の期間ってどれくらいですか?」
浜ちゃん先生
「会社によって異なりますが,2週間とか1週間である場合が多いです(会社法299条1項)。貴社の場合には取締役会がありませんし定款で1週間前と定められていますので1週間前に通知しなくてはならないということになりますね。」
M社長
「私は実兄,実姉について電話で通知していますが,この方法では駄目ですか?」
浜ちゃん先生
「取締役会が設置されている場合など,会社によっては株主総会の招集通知を
書面でしなければならない場合がありますが(会社法299条2項)。貴社の場合には取締役会が在りませんし、書面等によって議決権を行使できるとの定めもありませんので,招集通知を書面でする必要はないですね。」
M社長
「それじゃあ,実兄,実姉については連絡していますが,実弟に連絡していないことが問題となりそうですね。」
浜ちゃん先生
「そうなんです。貴社は本来招集を通知すべき株主の1人である実弟さんに対して通知してないことになりますので,株主総会決議取消しの訴えを提起されて,この裁判の結果,総会決議が取り消されるリスクがあります(会社法831条1項1号)。」
M社長
「でも実弟は当社のことに興味がないのでそんなことはしないと思います。」
浜ちゃん先生
「しかし株主総会決議取消しの訴えを提起できるのは通知を受けなかった弟さんだけではないんです。自分自身は通知を受けているお兄さん,お姉さんも訴えを提起することができるんです。会社の株主,取締役,執行役,清算人のいずれかであれば提起できますので,貴社の株主であるお兄様、お姉様にも訴えを提起する権限があるということになります。」
M社長
「それじゃあ,その総会決議取消しの訴えは,いつまで提起できるんですか?」
浜ちゃん先生
「決議の日から3ヶ月以内です(会社法831条1項)。」
M社長
「そうすると当社の場合にも3割の株主のうちの誰かや当社の役員等から株主総会決議取消しの訴えを起こされる危険があるということですね?」
浜ちゃん先生
「そういうことです。貴社の経営に興味がないであろう方,通知を送っても総会に参加されないであろう方にも招集通知をすることによって1度決まった総会決議が後から取り消されるリスクがなくなるのです。これは貴社の経営の安定につながると思いませんか?」
M社長
「きちんとした手続に則って招集しておけば後から総会決議を取り消されるリスクが軽減できるし,会社の経営の安定にもつながるということですね?」
浜ちゃん先生
「そういうことですね。」
(2017年10月 日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会 作成
「創業支援のための中小企業コンプライアンス・チェックシートとその解説【事業者向け】のQ1②より引用)
今回触れた株主総会の招集の点に限らず,きちんと会社法等の法令を遵守するコンプライアンス経営が会社経営の安定につながるケースが多いと思います。
中小企業がコンプライアンス経営を行っていくにあたって顧問弁護士を委任して日頃から相談をできる体制を作るのも有益ではないかと思われます。
コンプライアンスを重視した経営に興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。
執筆者
日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会
企業コンプライアンス推進プロジェクトチーム副座長 弁護士 浜田 諭
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