【コラム】賃金債権の消滅時効について
普段から労働問題について顧問弁護士である浜ちゃんに相談しているK社のY社長,以前,退職した社員から未払い賃金を請求されてまとまった額を支払ったことがあります。
Y社長は,この時の経験から賃金債権については2年で消滅時効にかかると理解していましたが,今年4月1日施行の民法では債権の消滅時効が5年に延長されるとの話を聞いて不安になり,浜ちゃんの事務所を訪れて相談することとなった。
浜ちゃん先生
「お世話になります。今年もよろしくお願いします。今日はどういった相談ですか?」
Y社長
「以前,当社が退職した従業員から未払い賃金を請求されたことがあるのはご存知ですよね?」
浜ちゃん先生
「はい。確か,それなりの額の支払いをして解決したんでしたよね?」
Y社長
「そうです。その際に賃金債権については発生時から2年で消滅時効が完成するということを当時依頼していた弁護士から聞いたんですが・・・今年4月に施行される民法では債権の消滅時効期間が5年になるとの話を聞きました。そうすると賃金債権については5年もの間,時効が完成しないことになります。これは大事(おおごと)だなと思って相談した次第です。」
浜ちゃん先生
「まず現在の賃金債権の消滅時効について確認していきましょう。消滅時効期間が2年間という根拠は労働基準法第115条になります。」
Y社長
「改正民法では債権の消滅時効期間はどうなっているんですか?」
浜ちゃん先生
「改正民法の第166条1項第1号に「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」に債権が「時効によって消滅する。」とあります。賃金については締め日がいつで支払日がいつであるのかを債権者である「労働者」が知っていますから「権利を行使することができるとき」と「権利を行使することができることを知った時」が一致します。
そうすると「権利を行使することができるとき」すなわち給与の支払日から5年間は時効消滅しないように読めます。」
Y社長
「そうするとやはり元々2年であった消滅時効期間が5年に延長されることになるのでしょうか?」
浜ちゃん先生
「この点については5年にするべきであるとの労働者側の団体から主張も強くありましたが,企業経営の負担が過大にならないようにということでいきなり5年にするのは時期尚早であるとの意見が労働政策審議会で出されたようです。」
Y社長
「それでどうなったんですか?」
浜ちゃん先生
「賃金債権の消滅時効期間を現在の2年から延長する内容での労働基準法の改正案が厚生労働省から今通常国会に提出されました。」
Y社長
「消滅時効期間は何年になりそうなのですか?」
浜ちゃん先生
「5年に延長されます。」
Y社長
「それでは今までに発生した賃金請求権の消滅時効は全て5年間になるということですか?」
浜ちゃん先生
「2020年4月1日以後に賃金支払い日が到来する賃金請求権については5年となりますが,2020年3月31日以前に賃金支払い日が発生した賃金請求権については当分の間,3年という内容になります。」
Y社長
「当分の間ということですが,現時点では決まっていないんですね?」
浜ちゃん先生
「そういうことになりますね。なお,改正労基法の施行5年経過の状況を勘案して検討し,必要があるときは措置を講じるとの規定も法案には入っています。」
Y社長
「少なくとも2020年4月1日以降に支払われるであろう賃金については全て消滅時効の期間が5年になるという法案が国会に提出されたということですね。」
浜ちゃん先生
「そういうことです。この法案は可決されるのではないかと思われます。」
Y社長
「労働時間の管理を含めた賃金請求権の管理については喫緊の課題になるという理解で良いですか?」
浜ちゃん先生
「そうなりますね。」
参照 労働基準法の一部を改正する法律案の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/000591650.pdf
今回触れた点に限らず労務管理について社労士の先生に加えて弁護士を顧問として委任することにより労使の紛争予防につながると思いますので興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。
- 従業員のセクハラ問題|会社の責任について弁護士が解説
- 弁護士が解説!債権回収の時効 ~権利が消滅する前に知っておくべきこと~
- 問題社員を解雇するための手順とは?解雇をするための要件やポイントを解説
- 問題社員の放置は危険!企業が抱えるリスクと対応すべき事項を解説
- 従業員の競業避止について企業が対応すべきこと
- 【中小企業向け】人事担当者、会社経営者必見!違法にならない退職勧奨とは
- 契約書の内容を変更するには?中小企業様必見!弁護士解説コラム
- 未払い残業代を労働者から請求されたらどうするべき?
- 【中小企業向け】時間外労働が月に60時間超で割増賃金率が引き上げに!経営者が求められる対応とは
- ハラスメント発生時において企業が求められる対応とは