【運送事業者必見】給与を差し押さえられた社員に対する懲戒処分可否を解説
浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長。
今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。
1.裁判所からの文書
K社長
「先日,裁判所から当社の社員の給与を差し押さえましたと書いてある文書が送られてきたのですが・・・」
浜ちゃん先生
「債権差押命令ですね。給与のうち差し押さえられた額については社員に支払うのではなく債権者に
支払わなくてはいけなくなりましたね。」
K社長
「そうなんですね。書面を見ると債権者は消費者金融のようですが,
この社員には他にも借金があるのではないかと不安になりまして。」
浜ちゃん先生
「可能性はありますよね。」
K社長
「借金をしているのみならず給与を差し押さえられるというのは自己管理能力の欠如ではないかと思います。
そうすると懲戒処分や解雇も検討すべき案件だなと考えているのですが・・・・」
2.懲戒処分や解雇は出来ない
浜ちゃん先生
「今回は複数の消費者金融などから借入れをしている(この状態を「多重債務」といいます。)可能性があること,
借入れの中に返しきれなくなって給与の差押えに至ったものがあることが明らかになりましたが,
今回の件では懲戒処分や解雇は出来ないですよ。」
K社長
「どうしてですか?」
浜ちゃん先生
「多重債務状態にあるというのは社員のプライベートな問題ですよね?」
K社長
「そうですね。もしかして前回話に出ていた企業秩序を乱したり,業務の遂行を妨げたりするものかどうか
という話ですか?」
浜ちゃん先生
「その通りです。現在の状態は企業秩序を乱したり,業務遂行を妨げたりするものではないですから
懲戒処分や解雇はできないということになります。」
K社長
「しかし会社に取り立ての電話がかかってきた場合には,他の社員が電話対応をしなくてはいけなくなりますので
業務遂行を妨げることになりませんか?」
浜ちゃん先生
「仮にそのような業者からの取り立ての電話があった場合ですが,社員の責任ではなく問題があるのは業者の方です よ。」
K社長
「どういうことですか?」
浜ちゃん先生
「貸金業法では「正当な理由がないのに,債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所に電話をかけ,電報を送達し,
若しくはファクシミリ装置を用いて送信し,又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること」は
禁じられているからです(同法21条1項3号)。」
K社長
「会社に取り立ての電話がかかってきたらどうすればいいですか?」
浜ちゃん先生
「会社に電話をするのは違法であること,債務者が当社に在籍しているかどうかも回答できないこと,
仮に在籍している場合でも取り次ぐことはできないことを伝えて厳重に抗議すべきです。」
K社長
「社員を守る意識が必要ということですね。」
浜ちゃん先生
「そうですね。なお今回のように差し押さえまでされると本来不要な業務をしなくてはいけなくなる
という面はあると思いますが,これだけで懲戒処分や解雇をすることはできませんね。」
3.社員が自己破産した場合には解雇できるか
K社長
「それでは社員が破産した場合はどうでしょうか?ここまで行くと解雇したりできそうですが・・」
浜ちゃん先生
「社員が自己破産しようとそれは社員の私生活上の問題に過ぎませんから基本的に懲戒処分や解雇はできないです よ。」
K社長
「でも破産までしてしまうと会社の仕事を任せられないという不安があるのですが・・」
浜ちゃん先生
「個人が破産する場合には破産の際に免責すなわち借金の支払い義務をなくしてもらうのが主な目的になります。
破産して免責を受けることによって借金のことを考えなくて済むようになりますよね。
そうすると社員は借金の支払い義務に追われて業務に集中できなくなったり会社のお金に手を付けたりするリスク
は破産する前よりもかなり低くなると思いますよ。」
K社長
「そうなんですね。破産することによって借金問題から解放されるという側面があるわけですね。」
浜ちゃん先生
「そうなんです。破産について漠然としたネガティブなイメージを持っている方が一般の方には多いようですが,
すでに多重債務状態に陥っている人のうち破産して免責を受けた人と無理してやりくりして払っている人とっては
前者の方が社内で問題を起こすリスクは小さいと思います。」
K社長
「破産によって失う資格があると聞いたのですが・・・そういった資格による業務を行っている社員についてはどう ですか?」
浜ちゃん先生
「よくご存じですね。警備員や証券外務員,宅地建物取引士などは破産開始決定を受けると
その資格による業務を行うことができなくなる場合がありますね。
雇用契約において職種が限定されている場合で,社員が破産開始決定を受けることによって,
その職務に従事することができなくなったという場合には解雇できるケースもあり得ます。
ただ,このようなケースでも退職勧奨をして退職してもらう方がベターです。
職種が限定されていない場合には配転(配置転換)して雇用を継続するという方法が妥当です。」
K社長
「そうなんですね。今回の社員はドライバーなので懲戒処分も解雇もできなさそうですね。
今日も勉強になりました。今後ともよろしくお願いいたします。」
浜ちゃん先生
「こちらこそ,よろしくお願いいたします。」
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さいごに
☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,宅建業や不動産取引にかかわる
紛争の解決に注力して参りましたが,今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組む
ことになりました。
このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!
執筆者 弁護士 浜田 諭
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