運送業における年休申請の取り扱いのポイントを解説
浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長。
今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。
K社長
「今日は休日の話でしたよね?年次有給休暇の取り扱いについて質問があるんですけど,よろしいですか?」
浜ちゃん先生
「どうぞ。」
K社長
「当社は社員数が少ないじゃないですか?」
浜ちゃん先生
「そうですね。ギリギリの人数でやりくりをしているといつも社長おっしゃってますもんねぇ。」
K社長
「それで年次有給休暇についてなんですけど,
休暇の直前に取得申請が出されることがあって人のやりくりが大変なんですよ。」
浜ちゃん先生
「そこで?」
K社長
「「有給の2日前までに申出をすること」等の
年次有給休暇をとるときのルールを就業規則で定めても良いでしょうか?」
浜ちゃん先生
「そのこと自体は問題ありません。判例(電電公社此花電報電話局事件 最判昭57・3・18)にも
「勤務割の変更は前々日までになすべしとの協約協定がある場合には代替要員の確保を容易にするために,
就業規則において年休請求を原則として前々日までになすべしと定めることも有効である」
との判断を示していますし,
S社と同じ運送会社が被告となった判例(S運輸事件 大阪地裁平12・9・1)においても
運転手10人という人員が少ないケースで,
「就業規則で3日前までに年休の届出を書面でなすことと定めているのは合理性がある」
との判断を示しています。」
K社長
「それじゃあ,ドライバーから有休の2日前までに申出がなかった場合には
有給取得を認めずに欠勤扱いにしてもいいんですね?」
浜ちゃん先生
「そういった杓子定規(しゃくしじょうぎ)な運用はお勧めしません。
欠勤の理由が本人や親族の病気であった場合には事後の届出であっても
年休への振替を認めてあげた方がよいでしょう。」
K社長
「それはどうしてですか?」
浜ちゃん先生
「使用者は,年次有給休暇を取得した労働者に対して,
賃金の減額その他不利益な取り扱いをしてはならない(労働基準法 附則136条)とされており,
この趣旨に反した運用は差し控えた方が良いと考えられるからです。」
K社長
「そうなんですか。年次有給休暇の基本的なルールを私は理解していないのかもしれませんね。
そもそも年次有給休暇については労働者が指定した時季に与える必要があるのですか?」
浜ちゃん先生
「年次有給休暇は労働者が請求する時季に与えることとされていますので,
労働者が具体的な月日を指定した場合には,その日に年次有給を与える必要があります。
これが原則です。」
K社長
「しかし,同じ時期に複数のドライバーが同時に有休をとられてしまうと
業務に支障を来してしまうのですが・・・」
浜ちゃん先生
「ご指摘のように,ドライバーが年次有給休暇を請求した時季に与えることが
事業の正常な運営を妨げる場合には,
他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。これを時季変更権といいます。」
K社長
「年次有給休暇って,どの労働者にも発生するんですか?発生の要件があれば教えてください。」
浜ちゃん先生
「1 雇い入れの日から6か月継続して雇われていること
2 全労働日の8割以上を出勤していること
という2つの要件を満たせば労働者は年次有給休暇を取得することができます。」
K社長
「労働者が取得する年次有給休暇の日数を教えてください。」
浜ちゃん先生
「以下の表のとおりです。 」
K社長
「勤務年数が長いほど取得する有給の日数が多くなるということですね。
ちなみに年次有給休暇って,いつまでも取れるんですか?」
浜ちゃん先生
「年次有給休暇の請求権の時効は2年ですので,
発生して2年以内であればとれるということになりますね。」
K社長
「そうなんですねぇ。有給が消化されないまま延々と増え続けるということはないわけですね。」
浜ちゃん先生
「その通りです。次回からは賃金にかかわる部分をお話ししていこうと思います。」
K社長
「次回もよろしくお願いします。」
浜ちゃん先生
「いえいえ,こちらこそよろしくお願いいたします。」
☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,
宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,
今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。
このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので、
よろしくお願いいたします!
執筆者 弁護士 浜田 諭
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