【コラム】新型コロナウィルスとテレワーク③
普段から労働問題について顧問弁護士である浜ちゃんに相談しているK社のY社長,
新型コロナウィルスの感染が広がる中,何らかの対策が必要だと考えて浜ちゃんに相談しています。
浜ちゃん先生
「前回テレワークの導入にあたっての注意点を話しましたね。」
Y社長
「今回はテレワークを導入する場合の労働時間の管理について話すということでした。
浜ちゃん先生
「そうですね。厚生労働省が策定した労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインという指針があるのですが,ご存知ですか?」
Y社長
「はい。3年前に先生が教えてくれたものですね?何か例外もあったような・・・」
浜ちゃん先生
「みなし労働時間を採用している場合や管理監督者には適用されないということを当時お話ししましたね。良く覚えておられますね。」
Y社長
「ありがとうございます。このガイドラインはテレワークを導入する場合にも適用されるんですね?」
浜ちゃん先生
「そうです。このガイドラインには
①始業・終業時刻の確認・記録
②始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法(タイムカード等の利用)
③自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
④賃金台帳の適正な調製
⑤労働時間の記録に関する書類の保存
⑥労働時間を管理する者の職務
⑦労働時間等設定改善委員会等の活用
について規定されています。」
Y社長
「そう言えば前回,テレワークを導入した労働者の休憩時間の話がありましたね?」
浜ちゃん先生
「テレワーク労働者の中抜け時間の取り扱いについてですね。復習しておいてくださいね。」
Y社長
「はい。テレワークで働く従業員についても時間外・休日労働が発生した場合には時間外労働・休日労働となって36協定の締結や割増賃金の発生を考えなくてはいけないんですよね?」
浜ちゃん先生
「そのとおりです。テレワークを行う従業員は、業務に従事した時間を日報等によって記録し,使用者はれをもってその従業員の労働時間の状況の適切な把握に努め,必要に応じて労働時間や業務内容等について見直すのが望ましいですね。」
Y社長
「時間外労働について事前許可制にするという方法はどうですか?」
浜ちゃん先生
「テレワークで働く従業員について時間外等に業務を行う場合には事前に申告し使用者の許可を得なければならず,かつ,時間外労働に業務を行った実績について事後に使用者に報告しなければならないと就業規則等で定める方法はありますね。」
Y社長
「そういった定めを設けていて,従業員からの事前申告がなかった場合や事後報告がなく,かつ,従業員から事後報告がなかった場合には,時間外労働と評価しなくて良いですか?」
浜ちゃん先生
「それだけではだめですね。」
Y社長
「他にどのような条件があるんですか?」
浜ちゃん先生
「まず次の3つの条件が必要です。」
①時間外等に労働することについて,使用者から強制されたり,義務付けられたりした事実がないこと
②その労働者の当日の業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合等,時間外に労働せざるを得ないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解し得る事情がないこと
③時間外等にその労働者からメールが送信されていたり,時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されたりしている等,時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がなく,使用者が時間外等の労働を知り得なかったこと
Y社長
「①から③のような事情があると時間外労働をしなくてはいけないような状態を使用者が把握していたり,時間外労働を命じていると評価されたりしてしまうということですね。」
浜ちゃん先生
「そのとおりです。さらに事前許可制及び事後報告制については,以下の点をいずれも満たしていければなりません。
①労働者からの事前の申告に上限時間が設けられていたり,労働者が実績どおりに申告しないよう使用者から働きかけや圧力があったりする等,当該事業場における事前許可制が実態を反映していないと解し得る事情がないこと
②時間外に業務を行った実績について,当該労働者からの事後の報告に上限時間が設けられていたり,労働者が実績どおりに報告しないように使用者から働きかけや圧力がある等,当該事業場における実績報告制が実態を反映していないと解し得る事情がないことです。
端的にいうと事前許可や事後報告の形はあるものの労働時間について実態を反映させない温床となるような運用になっていてはダメですよということです。」
Y社長
「労働時間をきちんと管理したいという反面,真面目な従業員がテレワークの導入によって延々と仕事をして結果的に長時間労働になる可能性もありますよね?」
浜ちゃん先生
「そうですね。労働時間の管理という側面の他に従業員が長時間労働に陥って健康障害が生じるリスクを防止する必要がありますね。事前の許可も事後の報告もせずに淡々と労働してしまうタイプの従業員については,このリスクを考えなくてはいけません。過労死を招くリスクもありますし・・・」
Y社長
「リスクを防止するためにどのような方法がありますか?」
浜ちゃん先生
「1つめはメール送付の制限ですね。
時間外,休日又は深夜に業務に関する指示やメール送付が行われることが長時間労働を招く要因となっている実情があると思いますので,役職者等から時間外,休日又は深夜におけるメールを送付することを自粛することを命じること等が有効ですよ。」
Y社長
「なるほど、2つめは何ですか?」
浜ちゃん先生
「テレワークの従業員が自宅のパソコンから貴社の社内システム等にアクセスして業務を行うことがあると思うのですが,深夜・休日はアクセスできないように設定すると時間外労働を防ぐのに有効だと思います。アクセスできない時間には仕事ができない,仕事ができないから仕事をしないということで長時間労働が防止できるということですね。」
Y社長
「なるほど。テレワークを行う従業員について時間外・休日・深夜労働を原則禁止とする方法はどうですか?」
浜ちゃん先生
「そういう方法もありますね。業務の効率化やワークライフバランスの実現ということ(現在ではコロナウィルス対策)からテレワークを導入するわけですからその趣旨を理解してもらった上で残業を時間外・休日・深夜労働を原則禁止とするとか前述の許可制にするとかといった対応は長時間労働の防止に有効ですね。就業規則等への明記や36協定の締結にあたっての工夫が必要となりますが」
Y社長
「管理者の方から長時間労働が生じるおそれのある従業員や休日・深夜労働が生じた従業員に対して注意喚起を行うというのはどうですか?」
浜ちゃん先生
「それもありですね。他にも労務管理のシステムを活用して対象者に自動で警告(長時間労働してますよ等)を表示する方法もありますね。」
Y社長
「なるほど,コロナウィルス対策という視点から始まった話ですが,テレワークという働き方について理解が深まった気がします。ありがとうございました。」
浜ちゃん先生
「いえいえ,こちらもテレワークについての理解を再確認する機会になりました。次回は新型コロナウィルスに関連して従業員を休業させる場合の措置についてお話ししていこうと思います。」
Y社長
「よろしくお願いします。」
今回触れたテレワークに限らず労務管理について社労士の先生に加えて弁護士を顧問として委任することにより労使の紛争予防につながると思いますので興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。
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