【コラム】弁護士が教える法改正 「年5日の年次有給休暇の確実な取得」その2
宮崎県内で内装工事業を営むM社を経営するA社長,かつてM社の巻き込まれた裁判でM社の代理人を務めた浜ちゃんからの提案でM社が抱える日常のトラブ
ルの対応を相談するために浜ちゃんと顧問契約を結んだところである。
浜ちゃん先生
「前回,年次有給休暇の基本についてお話ししましたよね?」
A社長
「そうでした。今回は制度の改正についてお話しされるということでした。」
浜ちゃん先生
「社長のところの社員の方は今まで年次有給休暇を消化されていましたか?」
A社長
「いやいや、周りが忙しいそうにしていると年次有給休暇がとりづらいのか,消化率は低いですね。5割を大幅に下回っていたと思います。」
浜ちゃん先生
「そうですよね。社長が社員の頃もそうだったんですよね?」
A社長
「私の頃は年次有給休暇をとることが少なくて,社内にもとらないのが当たり前みたいな空気がありました。」
浜ちゃん先生
「でも,会社を休みたい日もあったでしょ?」
A社長
「そうですねぇ。気分を変えたい時とかやる気が出ないときとか」
浜ちゃん先生
「そんなときは休んだ方が心身のリフレッシュもできますし,むしろ休暇後の労働効率が上がるかもしれないですよね。」
A社長
「そういう考え方もありますねぇ。」
浜ちゃん先生
「休みたいけど同僚や会社に気を使って休めない。その結果,年次有給休暇を利用しないまま,どんどん時効にかけて使えなくなってしまう,そんな悪循環を解消するという意味もあって,労働者の年5日の年次有給休暇の確実な取得を全ての使用者に義務付ける制度が出来たというわけです。」
A社長
「当社には有期雇用の方や管理監督者がいるんですが,この方々にも年5日の年次有給休暇を与えなくてはいけないんですか?」
浜ちゃん先生
「そうです。法律が定める年次有給休暇の付与日数が10日以上であれば,その方が正社員(期間の定めのない労働者)である場合はもちろん有期雇用労働者である場合も管理監督者である場合も対象になるんです!」
A社長
「年5日ということですが,1年をどこからどこまでで考えるんですか?」
浜ちゃん先生
「年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日ということになります。
次のイメージ図をご覧ください。」
(厚生労働省等「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」より引用」)
「2019年4月1日に入社した人が2019年10月1日に有給休暇を取得したという例では,この時点から1年以内に5日の年休を取得させなくてはいけないということになります。」
A社長
「1年以内の5日間なのですが,当社としては繁忙期ではなく閑散期にとって欲しいのですが,そういうことは可能ですか?」
浜ちゃん先生
「年次有給休暇の時季指定にあたっては,労働者の意見を聴取しなくてはいけません。またできる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう,聴取した意見を尊重するよう努めなくてはならないとされています。労働者との間で年休の取得時季について合意が得られれば閑散期に5日間が来るように調整できるケースはあると思います。」
A社長
「端的にいうと,当社の一存ではできないということですね?」
浜ちゃん先生
「そうなりますね。」
A社長
「それでは労働者の方が1年間に5日の年次有給休暇を請求・取得している場合にもさらに5日間,年次有給休暇を取得させなくてはいけないのですか?」
浜ちゃん先生
「その必要はありません。また残りの年次有給休暇の取得について時季指定をすることもできません。」
①「使用者による時季指定」
②「労働者自らの請求・取得」
③「計画年休」
のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば足りるんです。
そして①から③のいずれかの方法で取得させた年次有給休暇の合計が5日に達し
た時点で,使用者からの時季指定をする必要はなく,また,することもできないことになります。」
A社長
「年次有給休暇の取得状況についてどのように管理すればよいんですか?」
浜ちゃん先生
「使用者は,労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し,3年間保存しなければならないとされています。M社も年次有給休暇管理簿を作成しなければなりません。」
A社長
「労働者名簿や賃金台帳とは別に年次有給休暇管理簿という書類を作成しなくてはいけないんですか?」
浜ちゃん先生
「別に作成する必要はなくて,労働者名簿や賃金台帳とあわせて調製することができますし,必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で,システム上で管理することもできます。」
「下のイメージ図をご覧ください。
(厚生労働省等「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」より引用」)
このようなイメージの表を労働者名簿または賃金台帳に追加していく形で大丈夫
です。」
A社長
「年次有給休暇の時季指定に関して他に注意すべき点はありますか?」
浜ちゃん先生
「休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)とされています。
ですから使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は,時季指定の対
象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について,就業規則に記載しなければなりません。」
A社長
「年5日の時季指定義務や就業規則への記載を怠った場合にはペナルティがあるんですか?」
浜ちゃん先生
「罰則が科されることがあります。その具体的な内容は下の図のとおりです。
(厚生労働省等「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」より引用」)
A社長
「当社もきっちり守らないといけないということですね?」
浜ちゃん先生
「そういうことになります。気を付けましょう!」
A社長
「次回はどんな話になりますか?」
浜ちゃん先生
「次回は,改正点から離れて,普段相談されることが多い労働問題についてお話ししていこうと思っています。」
今回触れた点に限らず労務管理について社労士の先生に加えて弁護士を顧問として委任することにより労使の紛争予防につながると思いますので興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。
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