労働者に対する懲戒処分における注意点を解説

労働事件を浜ちゃんが多く扱っているとの噂を聞き,昨年末に今年1月からの顧
問契約を締結した株式会社K社,昨年11月の代表取締役交代に伴い,今後は労務管理をきちんとしていこうとM社長は思っている。


今回はM社長の頭を悩ませている社員への対応について浜ちゃんの事務所を訪
れて相談することとなった。

浜ちゃん先生

「明けましておめでとうございます。今年からよろしくお願いします。今回はどういった相談ですか?」

 

M社長

「平成29年の12月に当時、課長職にあったXという社員について降格処分をしたんですが,このXが平成30年6月に当社の降格処分について問題があるのではないかということで労基署に相談をしたようなんです。また時間外手当を当社が支払っていないということでも労基署に申告をしたようです。」

 

浜ちゃん先生

「それでどうなったんですか?」

 

M社長

「平成30年8月頃に労基署から指導が入ったのですが,先代の社長がその後も時間外手当を支払わなかったんです。」

 

浜ちゃん先生

「それは問題のある対応ですね。Xさんとしては納得がいかないでしょうから次のアクションをとったのではないですか?」

 

M社長

「さらにXは平成31年4月に時間外手当の不支給について労基署に申告しまし
た。」


浜ちゃん先生
「それでどうなりましたか?」

 

M社長

「先代の社長は平成31年7月15日にXを懲戒解雇しました。」

 


浜ちゃん先生

「えっ・・・・解雇理由は何ですか?」

 

M社長

「Xが2年前に行った当社の女性社員へのセクハラ行為です。」

 


浜ちゃん先生

「Xが行っていたセクハラについて貴社はどのような調査をしたのですか?」

 

M社長
「当時当社で働いていた女性社員からXから受けたセクハラの経緯を説明した書
面の交付を受けました。平成29年2月のことです。」

 

浜ちゃん先生
「その後、すぐにXさんからセクハラについて聞き取りをしたのですか?」

 

M社長
「平成29年5月末に件の女性社員が退職してしまいまして・・同年6月頃にXの聴き取りをすることになりました。」

 



浜ちゃん先生
「それでXさんは女性社員へのセクハラを認めましたか?」

 

M社長
「否定しました。」

 

浜ちゃん先生
「その後、退職した女性社員から聞き取りはしましたか?」

 

M社長
「してないようなんです。」

 

浜ちゃん先生
「それは問題ですね。その後,平成31年の懲戒解雇までにXに対する懲戒処分はしていないんですか?」

 

M社長
「していません。でも懲戒処分に時効はないんですよね?」

 

浜ちゃん先生

「過去の行為に懲戒処分をすることが時効にかかって出来なくなるということはありませんが,先代社長の懲戒解雇は懲戒権の濫用にあたるので無効ですね。」

 

M社長

「それは一体何ですか?ちょうかいけんのらんよう?」

 

浜ちゃん先生

「現在では労働契約法という法律にも明文化されているのですが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は懲戒処分が無効になるのです。労働契約法15条に規定されています。」


M社長

「懲戒権の濫用は,どのような基準で判断されるんですか?」

浜ちゃん先生
「(労働者の)行為の性質,態様,結果及び情状並びにこれに対する(使用者の)対応等に照らして判断されます。これはダイハツ工業事件という事件の最高裁判決で示された基準で,労働契約法15条にも「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして」という表現で明文化されています。」

 

M社長

「その労働契約法15条に書いている【労働者の行為の性質】とは何ですか?」

 

浜ちゃん先生
「懲戒事由となった労働者の行為そのものの内容を指します。本件ではXさんのセクハラですね。」

 

 

M社長
「【労働者の行為の態様】とは何ですか?」

 

浜ちゃん先生

「その行為がなされた状況や悪質さの程度を指します。懲戒権濫用の判断では,この労働者の行為の内容・悪質性の程度と処分の重さのバランス」(行為の悪質性の程度に比して労働者に下された処分が重すぎないか)を考慮する必要があります。


Xさんのセクハラの内容の詳細が分かりませんが,懲戒解雇という処分が行為に
比して重すぎると評価される事案だと思います。」

 

M社長

「【その他の事情】には何が含まれますか?」

 

浜ちゃん先生
「労働者の行為の結果(会社の企業秩序に対しどのような影響があったのか),労働者側の情状(過去の処分・非違行為歴,反省の有無・態度など),使用者側の対応(他の労働者に対する処分との均衡,行為から処分までの期間など)が含まれます。

 

本件においては懲戒対象行為であるセクハラ行為から懲戒処分まで約2年が経
過しており,仮にセクハラ行為によって企業秩序が乱されたとしても懲戒処分を行うことは正当化されないと思います。セクハラが発覚して速やかに調査を行い,セクハラの事実を認定したら速やかに懲戒処分を行わないと企業秩序は回復しませんし,本件では懲戒解雇という処分も重すぎて,かつ処分を下したタイミングからXさんへの報復と評価される可能性も高いですね。」

 

M社長
「懲戒処分をするに際しては色々な考慮が必要なんですね。私の代ではきちんとした懲戒処分の運用について慎重に行っていこうと思います。今年からよろしくお願いいたします。」

 

浜ちゃん先生
「こちらこそ,よろしくお願いいたします。」

 


今回触れた点に限らず労務管理について社労士の先生に加えて弁護士を顧問として委任することにより労使の紛争予防につながると思いますので興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。

 

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