「トラック運送業における労務管理」その22-トラックドライバー採用選考時の健康診断について-
浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長,
今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。
1 採用選考時に健康診断を実施する際のトラブル
K社長
「当社はドライバーを採用するにあたり,健康面での不安がある方は避けたいと思っており,
採用選考時に健康診断を実施して採用判断の資料としているのですが・・」
浜ちゃん先生
「なるほど。それでどうしました?」
K社長
「ある求職者がどうして採用される前に健康診断を受診しなくてはいけないのか,雇い入れ時に健康診断を
受けるんだからいいだろうと主張して健康診断を受けなかったということが最近あったんです。」
浜ちゃん先生
「その方は採用しなかったんですよね?」
K社長
「そうなんですけど,その方の言っていたことが気になったもので・・。
そもそも採用選考時に健康診断を求職者に受診させてはいけないのでしょうか?」
2 採用選考時の健康診断を行う際に考えるべきポイント
浜ちゃん先生
「この点について厚生労働省は
「健康診断の必要性を慎重に検討することなく,採用選考時に健康診断を実施することは,結果として,
就職差別につながるおそれがある」
(平成5年5月10日・労働省職業安定局業務調整課長補佐及び雇用促進室長補佐から
各都道府県職業安定主管課長宛事務連絡「採用選考時の健康診断について」)という文書を出しています。」
K社長
「そうすると採用選考時に求職者に健康診断を受診させてはいけないことにならないですか?」
浜ちゃん先生
「そういうことではありません。
この文書を理解するには雇い入れ時の健康診断を定める労働安全衛生法と労働安全衛生規則の規定を
理解する必要があると思いますので,そこから説明ていきます。」
K社長
「お願いします。」
浜ちゃん先生
「労働安全衛生法66条1項は「事業者は,労働者に対し,厚生労働省令で定めるところにより,
医師による健康診断を行わなければならない」と定めており,使用者の健康診断実施義務を定めています。」
そして労働安全衛生法規則43条は「常時使用する労働者を雇い入れるときは・・
健康診断を行わなければならない。」と雇い入れ時の健康診断の実施を規定しています。」
K社長
「これを受けてだと思うのですが,当社においても採用後に健康診断を実施していますね。」
浜ちゃん先生
「そうですよね。先に引用した条文を根拠にして採用選考時の健康診断を実施するという事例があったようですが,
それは問題ですよね。」
K社長
「雇い入れ時の健康診断は採用した後の問題,採用選考時の健康診断は採用する前の問題だからですか?」
浜ちゃん先生
「その通りです。先に引用した2つの条文を根拠に採用選考時の健康診断を本人の同意なく行うことはできません。
このことを述べる文脈の中で厚労省は「健康診断の必要性を慎重に検討することなく,
採用選考時に健康診断を実施することは,結果として,就職差別につながるおそれがある。」と
指摘しているんです。
K社長
「そう言えば,
厚労省が出した文書の中にも「健康診断の必要性を慎重に検討することなく」との限定がありますね。」
浜ちゃん先生
「その通りです。採用選考時に健康診断を行うことが不可能というわけではないのです。」
K社長
「そうなんですね。ホッとしました。」
浜ちゃん先生
「企業には採用の自由があります。
そして採用の自由の中には対象者の健康状態を考慮する自由も含まれています。」
K社長
「当社に限らずトラックドライバーは体力仕事ですからねぇ。」
浜ちゃん先生
「そうですね。入社後に肉体的・精神的に負荷がかかる業務に就かせるには労働者の健康状態を選考時から
把握することが必要な場合もありますし,トラックドライバーはその典型例の1つだと思います。」
K社長
「そうですか。でも求職者に健康診断の受診を強制することはできないですよね?」
浜ちゃん先生
「そうですね。まだ雇用契約も締結していませんし採用選考時の健康診断の受診を強制することはできません。
しかし受診しない人を採用しないのは自由ですよ。」
3.採用選考時の健康診断を受診しない求職者にどう対応すべきか
K社長
「今回のような求職者がいた場合に当社はどう対応すべきなのでしょうか?」
浜ちゃん先生
「拒否する理由を尋ねるとともに貴社が企業として健康診断を行う必要性を説明し,
同意を得るための努力をしましょう。その結果,同意が得られれば健康診断を実施するということになります。
それでも同意が得られない方については入社後も貴社における業務遂行にあたって
問題が生じるかもしれませんから採用しないという判断でも良いと思います。」
K社長
「わかりました。今日はありがとうございました。」
浜ちゃん先生
「いえいえ,お付き合いいただきありがとうございました。お疲れさまでした。」
最後に
☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,
宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,今後は流通・運送業界の法律問題の解決,
顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。
このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!
執筆者 弁護士 浜田 諭
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