運送業における会社支給物の私的利用の範囲を解説

浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長,

今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。

 

1 従業員が休憩時間に会社のパソコンを私的利用してアダルトサイトを見ている場合の対処

 

 

K社長

「当社の内勤の職員が休憩時間にアダルトサイトを見ているのでやめさせてほしいとの申告が

 同じ課の女性社員からあったのですが・・」

 

浜ちゃん先生

「閲覧しているのが女性社員にわかる状態で閲覧していたんですか?」

 

K社長

「どうもそのようです。」

 

浜ちゃん先生

「そうすると環境型のセクシャルハラスメントにあたる可能性もありますね。

 まず女性社員からの申告が事実かどうかを確認し,事実だと確認出来たら問題の社員に注意してやめさせた上で,

 セクハラであると認定できた場合には懲戒処分を下すことを検討すべきです。」

 

K社長

「実はもう注意をしていまして,問題の社員はアダルトサイトを見ていたことについては反省して2度としないと

 言っているのですが・・・

 休憩時間に会社のパソコンを利用していることは問題ないですよねという趣旨のことを言っていたんです。

 そもそも会社のパソコンについて休憩時間に社員が自由に使ってよいというのが原則なのでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「それでは会社支給のパソコンを社員が休憩時間に使用する場合の問題点について考えていきましょう。」

 

2 社員の休憩時間の会社PCの利用について

 

 

浜ちゃん先生

「会社が社員に支給しているPCは会社の所有物ですし,メールの送受信やインターネットを利用する場合に

 利用する社内LANについても会社が費用負担をしていますよね?」

 

K社長

「そうですね。」

 

浜ちゃん先生

「そうすると会社が支給したPCの利用には会社の施設管理権が及ぶことになります

 それに職場内での行動ですから社員は職場秩序を維持する義務を負います。」

 

K社長

「それはわかるのですが,使用者は休憩時間を自由に利用させなくてはいけないとされていますよね。

 そことの関係ではどうでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「良く理解されていますね。

 確かに休憩時間を「自由に利用させなければならない」(労働基準法33条)のですが,

 これは休憩時間に社員を労働させてはいけないという趣旨の条文になります。

 社員が休憩時間を自由に利用できるとしても休憩時間に会社が支給したPCを自由に利用できるということには

 なりません

 

 

 先ほど述べましたように会社支給のPCには施設管理権が及びますし,職場にいる以上は

 社員は職場の秩序を維持する義務を負うことになりますので自由な利用はできないことになります。」

 

K社長

「そうすると社員の休憩時間に社員が会社支給のPCの利用をすることを制限することが可能ということになります

 ね。」

 

浜ちゃん先生

「そのとおりです。」

 

3 会社が社員に支給したPCの私的利用状況を確認することは可能か

 

K社長

「問題の社員ですが,どうも休憩時間以外にも私的にPCを利用しているようなのですが,

 当社がPCを調べることは可能ですか?社員のプライバシーの問題がありそうですが・・」

 

浜ちゃん先生

「確かに社内のPCについての社員の私的利用に関する情報は「私的」な情報に当たりますので,

 プライバシー権が及ぶと思います。」

 

K社長

「それでは会社が会社支給のPCについて調査することはできないのでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「そういうことではありません。

 先ほどから申し上げているように会社支給のPCには会社の施設管理権が及びますし,

 業務の必要があって社員に貸与されているものです。

 そうすると会社支給のPC内の情報は完全に「私的」なものではありません。」

 

K社長

「そうですよね。」

 

浜ちゃん先生

「それに社員がPCを使って行った通信内容は社内ネットワークシステムのサーバーコンピューターや端末内に

 記録されるものです。そうすると例えば社員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを利用した場合に,

 期待しうるプライバシーの程度は通常の電話装置の場合よりも相当程度低減されるとされています

 

 

 これはF社Z事業部(電子メール事件 東京地方裁判所 平成13年12月3日判決 労働判例826号76頁)

 でも判断されているところです。」

 

K社長

「電話よりも,会社PCを使って送受信した電子メールについてのプライバシー保護の程度が低くなるというのは

 わかりましたが,会社が社員が使用している会社PCについて調査をする際に

 どこまでがOKでどこからがアウトなのかを知りたいのですが・・」

 

浜ちゃん先生

「先ほどの判例は結論的には,会社が指摘メールの閲覧をすることができるとしつつも,

 私的なメールについてプライバシー権を認め,社会通念上相当な範囲を逸脱した場合には,

 社内メールの閲覧はプライバシー権を侵害するものとして違法になると判断しています。」

 

K社長

「その判例の考え方で本件を考えるとなるとどう考えるべきでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「会社としては,無制限に社員に支給したPC内のデータをチェックして

 私的利用の頻度や私的利用の期間,私的利用の方法・態様を確認することはできませんが,

 特定の不正を調査するために,権限のある者が行う場合には

 社会通念上相当な範囲を逸脱するものではなく調査することに問題はないと思います。」

 

K社長

「この点に関して就業規則の内容に手を入れる必要がありますか?」

 

浜ちゃん先生

「会社が一定の合理的必要性があればメールの使用状況(メールの内容を含む)を調査する旨,

 その調査の具体的方法や実施者,実施する場合の責任者について就業規則等に定めておくと良いですね。」

 

4 会社支給PCを私的に利用している社員にどう対応すべきか

 

 

K社長

「それでは問題の社員との関係でどのように対応していけばよいでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「まず,もし調査ができたのであれば調査結果を踏まえて,私的利用の頻度,私的利用の期間,

 私的利用の方法・態様について整理して利用していた社員と面談して事実確認をしましょう。」

 

K社長

「その時に注意すべきポイントがあれば教えてください。」

 

浜ちゃん先生

会社の調査結果と社員が認識している利用状況の整合性を確認してください。

 社員自身が問題の私的利用の日時に「自ら」利用していたかどうかを確認することです。

 自分のパソコンを使って他の社員が利用していたんだという弁明が出ることも想定して,

 そのような言い分を後から許さないようにしておく必要があります。

 もちろん,この段階でそのような弁明が出れば他の社員によるログイン・利用の可能性も検証する必要がありま

 す。」

 

K社長

「他にもポイントがあれば教えてください。」

 

浜ちゃん先生

「私的利用を行った理由を聞いて,面談する方から社内PCの私的利用がどうしていけないのか,

 会社の就業規則上どうなっているのか等を説諭して注意・指導する必要があります。」

 

K社長

「この注意・指導については形に残しておいた方がよいんですよね?」

 

 

浜ちゃん先生

「そうですね。録音してそのデータを必要に応じて書き起こして書面にしておき

 かつ社員への注意・指導を書面でも行い,その内容を理解した旨の書面に社員から

 署名・捺印をもらうというのが理想的な対応だと思います。

 

 形に残す理由は,今後,問題の社員との間で紛争が生じた場合に,どのような問題についてどのような対応

 をしたのかを記録しておいて証拠として提出できるようにしておきたいからです。

 記録を残しておかないと言った言わないの不毛な争いを避けられませんし。」

 

K社長

「注意・指導をしても改まらない場合にはどうしますか?」

 

浜ちゃん先生

懲戒処分を検討することになりますが,私的利用自体で会社に生じる損失は軽微ですから

 処分をするかどうか処分をする場合にどの程度の処分をするかは慎重に判断すべきだと思います。」

 

K社長

「私的利用だけでしたら処分することがないと思うのですが,

 女性社員の目に触れるところで,敢えてアダルトサイトを閲覧したりするとなると

 私的利用だけの問題じゃないですから場合によっては懲戒処分も検討すべきでしょうね。」

 

浜ちゃん先生

「そうですね。事実を確認し,それを評価した場合に会社支給PCの私的利用にとどまらず

 セクハラに該当すると判断した場合には懲戒処分も検討すべきかなと思います。」

 

K社長

「わかりました。今日はありがとうございました。」

 

浜ちゃん先生

「いえいえ,お付き合いいただきありがとうございました。お疲れさまでした。」

 

最後に

 

 

☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,

 宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,

 今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。

 このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!

 

執筆者  弁護士 浜田 諭

 

 

 

 

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