トラック運送業における労務管理その11 -ドライバーの大型免許取得費用を会社が負担した後,すぐにドライバーが退職する場合の問題-

浜ちゃんが最近,物流業界に興味を持っているとの噂を聞き,相談に来られた運送会社S社のK社長。

今回もトラック運送業における労務管理について浜ちゃんに相談しています。

 

 

1.大型免許の取得費用の会社負担

 

K社長

「当社は中型車両10台,大型車両40台を保有しているのですが,

 大型免許を保有しているドライバーが増えると運行計画が立てやすいと考えました。」

 

浜ちゃん先生

「なるほど,それでどうされる予定ですか?」

 

K社長

「現在,中型免許までしか持っていないドライバーに大型免許をとってもらおうと思っています。

 

浜ちゃん先生

「その費用を貴社が負担してあげるということですか?」

 

K社長

「そのとおりです。しかし費用を負担して

 ドライバーに大型免許をとってもらった後にすぐに退職されてしまうと困るんですよねぇ。」

 

浜ちゃん先生

「実際に退職してしまう例もあるようですから当然の懸念ですね。」

 

K社長

「そのような場合,退職したドライバーから当社が費用を返してほしいという気持ちもあるのですが,

 そもそも,このような事態が生じないようにしたいんですよね。」

 

 

2.どのような形で会社はドライバーの大型免許取得費用を負担すべきか

 

浜ちゃん先生

「なるほど,ご意向はわかりました。

 そうすると免許取得費用については貴社からドライバーへの貸付けの形をとった方がいいですね。」

 

K社長

「大型免許を取った後ちゃんと働いてくれれば返してもらう必要がないものなので、

 貸付けの形にするのに違和感があるのですが・・」

 

浜ちゃん先生

「貴社のドライバーに大型免許をとってもらうという話ですが,

 これは大型免許を持っていないドライバーに希望の有無を打診して,

 希望があれば取得費用を出すという形式ですか?

 それとも会社の業務として大型免許の取得を命じるという形式ですか?」

 

K社長

「希望しないドライバーに取得させるつもりはありませんので前者ですかね。」

 

浜ちゃん先生

「なるほど。これまではドライバーの大型免許取得にかかる費用はドライバーが負担していたんですよね?」

 

K社長

「そうですね。既に大型免許を取得している方が求人を見て応募してくることが多いので,

 当社が大型免許取得費用を出したことはないですね。」

 

浜ちゃん先生

「今伺った話を前提に考えますと,やはり貴社が大型免許費用をドライバーに貸し付けて,

 免許取得後一定の期間勤務すれば貸金の返還義務を免除するという形式をとるのが良いと思います。」

 

 

3.労働基準法16条に違反しないように注意!

 

K社長

「どうしてそのような形式がいいのでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「免許取得費用をドライバーに負担させる場合には

 労働基準法16条に違反しないかを考えなくてはいけません。」

 

K社長

「労働基準法16条にはどのようなことが定められているのですか?」

 

浜ちゃん先生

「労働基準法16条に

 「使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」

 とあります。」

 

K社長

「免許取得費用のドライバー負担と労働基準法16条がどうして関係するのでしょうか?」

 

浜ちゃん先生

「例えば,貴社がドライバーに命じて貴社の費用負担で大型免許を取得させ,免許取得後のドライバーを

 貴社に確保するために一定期間,貴社で就労することを約束させ,約束に違反すると

 違約金として取得費用を負担させる形式をとるとします。」

 

K社長

「当社もこういうイメージでの費用負担も検討していたところです。」

 

浜ちゃん先生

「この形式の場合,大型免許取得後に貴社をすぐに退職した場合の違約金を定めたものと評価されます。

 すなわちドライバーは免許取得後,貴社で働かなければ

 免許取得費用を負担しなくてはいけなくなるので貴社での就労を強いられます。

 そして就労しない場合のペナルティとして取得費用を負担させられると評価されますので,

 労働基準法16条に違反することになりますね。」

 

K社長

「なるほど。少し確認させてください。当社からドライバーに大型免許費用を貸し付けた形をとると、

 ドライバーはまずお金を返さなくてはいけないというのがスタートラインになりますね。」

 

 

浜ちゃん先生

「そうです。しかも大型免許取得については貴社がドライバーに提案し,ドライバーが希望すれば

 取得費用を貴社が貸与するという形式をとれば業務命令として大型免許を取得させられたという形にもなりません。」

 

K社長

「実際,当社のドライバーに無理やり大型免許をとらせるつもりなんてありませんからねぇ。」

 

浜ちゃん先生

「こうやってドライバーに大型免許取得費用を貸し付けたうえで,

 例えば免許取得費用後,2年間貴社において大型ドライバーとして就労したら返済義務を免除するという形にすれば

 労働基準法16条違反の問題が生じづらくなるんです。」

 

K社長

「それに,この形式だと最初から免許取得費用については当社からの貸付だと理解して

 ドライバーは大型免許を取得しますね。そして,大型免許取得後すぐに退職すると

 借りたお金を返さなくてはいけなくなるというのを理解しているわけですから,

 当社に大型免許取得費用だけ負担してもらって免許がとれたら

 退職してしまおうというドライバーもそうそう現れないでしょうね。その点からも有効ですね。」

 

 

4.研修費用・免許取得費用等の労働者負担についての裁判例の紹介

 

K社長

「ちなみに,これは裁判所の考え方でもあるのですね?」

 

浜ちゃん先生

「同様の考え方を示した裁判例は複数あります。

 (長谷工コーポレーション事件―東京地判平9・5・26 

  労判717号14頁,野村證券事件―東京地判平14・4・16 労判827号40頁 等)」

 

K社長

「運送業界における裁判例もありますか?」

 

浜ちゃん先生

「運送業界における裁判例ではないのですが,普通第二種免許の取得費用について

 タクシードライバーの裁判例

 (コンドル馬込交通事件 東京地判平成20・6・24 労判973号67頁,東亜交通事件 大阪地判平21・9・3 労判994号41頁)

 があります。」

 

K社長

「そうなんですね。当社においてドライバーの大型免許取得費用を負担する際には

 今回の話を踏まえてドライバーとの契約を考えることにしますね。

 今日も勉強になりました。今後ともよろしくお願いいたします。」

 

浜ちゃん先生

「こちらこそ,よろしくお願いいたします。」

 

 

 

☆当事務所においては,これまでも労務管理を中心とする中小企業の顧問業務,

 宅建業や不動産取引にかかわる紛争の解決に注力して参りましたが,

 今後は流通・運送業界の法律問題の解決,顧問業務にも力を入れて取り組むことになりました。

 このブログにおいても有益な情報発信ができるよう努力して参りますので,よろしくお願いいたします!

 

 

執筆者  弁護士 浜田 諭