企業が警戒すべき「リベンジ退職」のリスク
今回は最近耳をすることが増えてきた「リベンジ退職」のリスクについてお話ししていこうと思います。
お話しする内容は以下のとおりです。
1 「リベンジ退職」とは
2 リベンジ退職によって企業が被る具体的な被害
3 リベンジ退職が発生した場合の対処法
4 リベンジ退職を未然に防ぐための予防策
5 リベンジ退職に関して弁護士に相談するメリット
6 当事務所のサポート内容
企業側に立って労務問題を多く扱う弁護士の視点から、近時企業にとって無視できないリスクとなっている「リベンジ退職」について解説します。経営者や人事担当者の皆様が、法的・実務的な防衛策を講じる際の一助となれば幸いです。
近年、労働市場の流動化に伴い、社員の退職の在り方も多様化しています。その中でも、企業が特に警戒すべきものが「リベンジ退職」です。円満退社とは対極に位置するこの現象は、一度発生すると会社に具体的な損害の発生、企業のブランド価値の低下等を招き会社の経営状態に深刻な影響を与える可能性があります。
1 「リベンジ退職」とは
「リベンジ退職」とは、会社に対して不満や恨みを抱いた従業員が、退職のタイミングやその前後に、会社に損害を与えることを目的として意図的に攻撃的な行動に出る退職形態を指します。
単なる「一身上の都合」による退職ではなく、会社への「復讐(リベンジ)」が主目的となっている点が特徴です。背景には、パワハラ・セクハラ問題、サービス残業の常態化、不当な人事評価、あるいは深刻な人間関係の歪みなどが潜んでいることが多く、退職者が「やられっぱなしでは気が済まない」という心理状態に陥ることで発生します。
2 リベンジ退職によって企業が被る具体的な被害
リベンジ退職による被害は、目に見える金銭的損失から、目に見えない会社に対する信頼(会社の商品やサービスを購入しているお客様、取引先等)の失墜まで多岐にわたります。以下、そのリベンジ退職がどのような形で行われるかについて何パターンかをお示しします。
(1)労働基準監督署等への通報・告発
退職した社員、退職を予定している社員から労働基準監督署へ未払い残業代があること、労働安全衛生法違反の実態があることが通報・告発が行われるというのが良くあるパターンです。実際には残業代を支払っていたり労働安全衛生法の違反実態がなかったりすることもあるのでしょうが、このような通報や告発を受けて労働基準監督署等の調査が入ること自体によって会社の日常の業務に支障を来す、対応に時間や労力を取られるという意味で会社にとっては損害が生じることになります。
実際に未払い残業代が明確に存在する場合には労働基準監督署の是正勧告が出て実際に支払わなくてはいけない状況に追い込まれることもあります。ただ、通常の賃金の不払いを起こしている場合と異なり残業代については労働時間について労使の見解が異なる、固定残業代として支払っている額が残業代に充当されると実際には残業代が発生しないのではないかと会社側の主張に合理性があるケースも多いので未払い残業代の額については争う余地がありますし、この点について裁判所の判断を踏まえてその額を支払うという対応が正しいケースも少なくありません。
なお労基署への申告を契機とする場合に限った話ではありませんが、1人の従業員との間で未払い残業代があり、それを支払ったという情報が他の社員に伝わると他の社員からの請求を誘発する可能性があり、それを支払うと会社経営に深刻な損害が発生する可能性もあります。
(2)機密情報・顧客情報の持ち出し
競合他社への転職を前提に、営業秘密や顧客リストを不正に持ち出すケースです。これは企業の競争力を直接的に削ぐ行為です。競業規制や顧客情報の管理については労務管理においても最も難しい場面だと思いますし、機密情報・顧客情報については業務に必要な情報の共有をしつつも退職や転職時の持ち出しを防止することのバランスをどこでとるのかというのは非常に難しい課題であると考えます。
(3)SNSや口コミサイトへの悪評投稿
「ブラック企業」としての内情を暴露され、採用ブランディングや社会的信用が著しく毀損されるパターンです。「デジタルタトゥー」という表現もありますように一度拡散された情報は完全に消去することが困難です。
(4)連鎖退職の誘発
退職者が仲の良い同僚を扇動し、主要メンバーを引き連れて退職するケースです。業務の継続が困難になるほどの打撃を受けることもあります。またこれと未払い残業代の請求が同時に起こる可能性があり(退職すると会社に対して義理立てをする動機がなくなりますし「リベンジ」する場合に未払い残業代の請求ができるのであれば請求してくるのが通常だと考えておくのがリスクの予想としては正しいと思います。)、人手不足と経済的な損害が同時に発生する事態になりかねません。
3 リベンジ退職が発生した場合の対処法
実際にリベンジ退職の兆候が見られた、あるいは発生した場合には、社員との感情的な対立を避けつつ、冷静かつ迅速に法的根拠に基づいた対応を行う必要があります。
(1)証拠の保全
PCの操作ログ、メールの送受信履歴、社内チャットのバックアップを直ちに確保してください。情報の持ち出しや誹謗中傷が行われた際の有力な証拠となります。
(2)誓約書の提出確認
入社時や退職時に署名させた「秘密保持誓約書」や「競業避止義務に関する合意書」を再確認します。義務違反が明確な場合は、書面(内容証明郵便等)による警告を検討します。
(3)毅然とした法的対応
会社に対する誹謗中傷に対しては投稿の削除要請や発信者情報開示請求、重大な損害を被った場合には損害賠償請求も視野に入れます。ただし、会社側に落ち度(未払い残業代等)がある場合には泥沼化を避けるための和解交渉も戦略的な選択肢となります。
4 リベンジ退職を未然に防ぐための予防策
「リベンジ」の動機を生まない環境作りが最大の防御です。具体的には以下のとおりです。
(1)コンプライアンスの徹底
未払い残業代の解消や、ハラスメントの防止策を講じることが大前提です。「攻撃する隙」をなくすことが重要です。
(2)適切な退職勧奨・面談
感情的な対立が予想される場合、退職に至るプロセスを丁寧に踏む必要があります。退職理由を真摯にヒアリングし、不満が爆発する前にガス抜きを行う「出口管理(エグジット・マネジメント)」を徹底しましょう。
(3)就業規則と誓約書の整備
秘密保持義務や競業避止義務について、最新の裁判例に即した有効性の高い規定を整備しておくことが、心理的な抑止力として働きます。
(4)IT資産の管理
重要なフォルダへのアクセス権限を制限し、USBメモリの使用制限やログ監視を行うことで、「リベンジの手段」を物理的に断つことが可能です。
(5)実際に私が経験した紛争事例
5年以上前になりますが、IT企業に勤務する社員が会社の重要なデータを削除して会社に損害を与えた上で退職するという「リベンジ退職」と評価できるような案件を会社側の代理人として対応したことがあります。退職した社員に対して損害賠償を請求する民事訴訟を提起し、請求額通りの支払いを命じる判決をもらうことができましたが、その社員に支払い能力がなく、強制執行で回収できたのもごく一部でその社員がその後に破産して免責許可をもらったことから会社が元社員に有していた損害賠償請求権を根拠とした現実の回収がほとんど得られない案件となりました。
この裁判を通じてもその社員が会社に損害を与えるような行為を行った動機が最後までわかりませんでしたが、「リベンジ退職」というワードを見て思い出したのがこの案件でした。
5 リベンジ退職に関して弁護士に相談するメリット
リベンジ退職の厄介な点は、退職者が「自分は被害者だ」と強く信じ込んでいるケースが多いことです。かかる退職者または退職予定者を相手方として対処していく際に弁護士に相談するメリットは以下のようなものです。
(1)第三者的視点によるリスク分析
当事者同士では感情的になりがちな交渉も、弁護士が介在することで法的な論点に集約し、冷静な解決を目指せます。
(2)オーダーメイドの書面作成
会社を守るための誓約書や通知書は、定型文では不十分です。会社の業務内容や社員が会社においてどのような業務を行っているのか顧客情報や機密情報にどの程度アクセスできるのか等の個別の状況に応じた実効性のある文書を作成することが可能です。
(3)事前の紛争予防
早期にご相談いただくことで、「どのタイミングでどのような誓約書をとっておくべきか」「どのタイミングでどのような通知を出すべきか」等という戦略を立てることができ、退職予定者や退職者との紛争を未然に防ぐ可能性が高くなります。
(4)まとめ
リベンジ退職は、一度起きてしまうと事後対応には膨大なエネルギーを要します。「去る者は追わず」ではなく、「禍根を残さず送り出す」ための体制構築が、これからの企業経営には不可欠です。貴社の就業規則や退職フローに不安はありませんか? 現在の規程が「リベンジ」に耐えうるものかどうか、一度リーガルチェックを行ってみることをお勧めいたします。具体的な対策案の作成についても、ぜひ弁護士にご相談ください。
6.当事務所のサポート内容
当事務所は多くの会社の顧問業務を日常的に行っており、その中でリベンジ退職と評価できるような退職予定者、退職者に対してどう対処すればよいのかという相談を受けるケースも少なくありません。またリベンジ退職への対応のみならずリベンジ退職の予備軍とも言える問題社員への退職勧奨、解雇を含めた問題社員との雇用契約終了に向けてのアドバイス、退職勧奨の方法等についての助言、雇用契約終了について紛争化した場合の会社の代理人としての交渉対応、訴訟対応などを行っております。
リベンジ退職対応も含めた社員との雇用契約終了(解雇、退職等)に向けて弁護士から適切な助言を得るには、紛争化した後のスポットでの対応を依頼するよりも、日頃から問題社員(リベンジ退職予備軍)対応について弁護士から助言を得られる体制作りをされること(顧問弁護士を依頼されること)、顧問弁護士に問題社員対応等を相談することを習慣にされることをお勧めします。このことにより会社の業務や社内での人間関係を理解した上での助言を顧問弁護士から得ることが可能となるからです。
当事務所との顧問契約を検討されたい会社経営者の皆様、人事担当者の皆様は遠慮なくお問い合わせください。




















