【コラム】弁護士が教える法改正 「時間外労働の上限規制への対応」その1

宮崎県内で介護事業を営むK社を経営するS社長,事業承継でK社の経営を父から引き継いでからK社の抱える問題について顧問弁護士の浜ちゃんに相談するのが日常となっている。

 

S社長
「浜ちゃん先生,父が経営している頃に36協定というものを当社の従業員との間で結んでいるようなんだけど36協定ってそもそも何ですか?」

 

浜ちゃん先生
「A社では従業員の方は残業することがありますか?」

 

S社長

「そりゃぁ,人手が足りないときとかには残業してもらうことがありますね」

 

浜ちゃん先生

「社長のいう残業って1日8時間,週でいうと40時間を超える時間外労働のことですよね?」

 

S社長

「そうですよ。」

 

浜ちゃん先生

「先に述べたような残業(「時間外労働」を従業員にしてもらうために必要な従業員や組合との協定を36協定というんですよ。」

 

S社長

「へ~そうなんですね。当社にも父が社長をしていた頃の36協定があるみたいなんですけど,そこに定められている残業時間よりも多い残業をしてもらう必要があって36協定を改めて締結したいんですけど誰との間で締結すればいいんですか?」

 

浜ちゃん先生
「K社って労働組合がなかったですよね?」

 

S社長
「ないですね。」

 

浜ちゃん
「それじゃぁ,従業員代表の方との間で協定を結ぶことになりますね。」

 

S社長

「じゃあ,うちのベテランケアマネージャーのB子さんに従業員代表になってもらおうかな。」

 

浜ちゃん
「社長~従業員代表を決めるのは社長ではなく従業員ですよ。しかも,この点について法律の改正に伴ってルール変更があったんです。」

 

S社長

「それじゃあ,その改正のことやルール変更について教えてくださいよ。」

 

 

(1)はじめに

前回は時間外労働の上限規制の概要についてお話ししましたが,今回は実務上のポイントについてお話ししていこうと思います。

 

(2)附帯決議を踏まえた規則・指針について

今回の働き方改革関連法案の可決・成立に際して,衆議院・参議院から多数の附帯決議が付されていて(衆議院12項目/参議院47項目),それを踏まえて規則や指針が規定されています。

ちなみに「附帯決議」とは、「政府」が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。附帯決議には政治的効果があるのみで,法的効力はありません
(参議院 ホームページより引用)とされています。

 

 

話が脱線しました。

 

時間外労働の上限規制に関連する附帯決議を反映した規則・指針についてご紹介したいと思うのですが,前提知識として36協定についてお話しします。

36協定とは労働者に時間外労働をさせるために必要な協定のことであり,労働基準法第36条を根拠とすることから36協定と呼ばれています。

 

労働基準法 第36条第1項を引用します。

 (時間外及び休日の労働)

第三十六条

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

 

36協定を締結する「労働者の過半数を代表する者」について改正省令(労基法施行規則)が定められており,この点が実務上重要だと思われますので,以下に労基法施行規則第6条の2を引用します。

 

第六条の二 

・・・に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。

一 (略)

二 に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。

2(略) 

3(略)

4 使用者は、過半数代表者がに規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない。

 

重要だと思われるところを赤字にしているのですが,この部分は以下のような趣旨基づくものになります。

労基法の原則である1日8時間,週40時間の労働時間の原則に変更を加えるのが労基法36条であり,労働者の健康に対して重大な影響や不利益を与える可能性があります。

このことから36協定締結における労働者側の代表者となる過半数代表者の選出過程について民主的な手続を要求するのみならず,「使用者側の意向が入らないよう」厳格に定めた規定ということになります。

使用者としては過半数代表者の選出にあたって使用者側の意向が入ったとの誤解を招かないように気を付ける必要があります。

 

36協定の締結に当たって留意しなくてはいけない点について指針が示しています。

① 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめてください(指針第2条)。

これは労働時間の延長は1ヶ月45時間,1年360時間を原則とすることを明示したものだと思われます。

 

② 使用者は,36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負いますし,労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要があります(指針第3条)。

 

36協定を締結し,その範囲内で労働者に労働させていたとしても長時間労働をさせていると過労死との関連性が強まりますし,過労死といった不幸な事態が生じた場合には安全配慮義務違反という評価を受けて損害賠償責任を負わされるリスクがあります。

ちなみに「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(平成13年12月12日付 基発第1063号厚生労働省労働基準局通達)においては

・1週間当たり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなるほど,業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まるとされていること

・1週間当たり40時間を超える労働時間が月100時間又は2~6ヶ月平均で80時間を超える場合には,業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いとされていること

に留意しなくてはなりません。

 

③ 時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化して,業務の範囲を明確にしてください(指針第4条)。

 

36協定の締結の届出にあたっては,時間外労働をさせる必要の意ある具体的事由とともに,当該必要のある業務の種類も記載しなければなりません。これは記載例(厚労省等作成「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」より引用)をご覧いただくと分かりやすいのではないでしょうか。これは様式第9号の記載例です。

 

 

 

少し長くなってしまいましたので続きは次回ということにいたします。

 

この点に限らず労務管理について社労士の先生に加えて弁護士を顧問として委任することにより労使の紛争予防につながると思いますので興味をお持ちの事業者の皆様,お気軽にご相談ください。