【弁護士解説】「フキハラ」で労災認定!裁判例から経営者が学ぶべき新たなハラスメントリスクと企業が取り組むべき対策
近年、ハラスメントの多様化が進んでいますが、今、企業の経営者が最も警戒すべきキーワードの一つが「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」です。「単なる機嫌の悪さ」「個人の性格の問題」と片付けられがちだった態度が、ついに労働災害(労災)として認定され、企業の法的責任が厳しく問われる時代になりました。
20年近くのキャリアで多くの労使紛争を解決してきた弁護士の視点から、実際の裁判例を踏まえ、企業が負うべきリスクとその具体的な対策について徹底解説します。
取り上げる内容は以下のとおりです。
1 フキハラ(不機嫌ハラスメント)とは
(1)フキハラの定義と具体例
(2)フキハラが起こる背景
2 ニュース解説「東京ガス社員自殺をめぐる訴訟,フキハラによる労災認定」
(1)事案の概要
(2)弁護士の所感
3 企業がフキハラを放置するリスク
4 組織を守るために企業が取り組むべきこと
5 まとめ
6 当事務所のサポート内容
1. フキハラ(不機嫌ハラスメント)とは
(1) フキハラの定義と具体例
フキハラとは、「自らの不機嫌な態度や言動によって、周囲に不快感や威圧感を与え、職場環境を悪化させる行為」を指します。大声で怒鳴る、暴力を振るうといった分かりやすいパワハラとは異なり、いわゆる「精神的な嫌がらせ」や「受動攻撃(パッシブ・アグレッシブ)」に近い性質を持っています。
職場における具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。
・質問や報告に対して、ため息をつく、舌打ちをする
・書類を机に叩きつけるように置く、ドアを大きな音を立てて閉める
・挨拶をされても無視する、特定の部下に対してだけ冷淡な態度をとる
・機嫌が良い時と悪い時の差が激しく、周囲に過度な「気遣い」を強いる
(2)フキハラが起こる背景
なぜ、職場でフキハラが発生してしまうのでしょうか。
主な背景には、「感情コントロールの未熟さ」と「職場内の歪んだ権力構造」があります。 業務上のプレッシャーや私生活のストレスを職場に持ち込み、それを他人にぶつけてしまう心理が根本にあります。さらに、「不機嫌な態度をとっても誰も文句を言えない」という上司と部下の間の優越的な関係性が、この行為を助長・長期化させる原因となっています。
2. ニュース解説|東京ガス社員自殺をめぐる訴訟、フキハラによる労災認定
この問題が単なるマナーの範疇を超え、重大な法的リスクであると証明されたのが、東京ガス社員の自殺をめぐる訴訟です(東京地方裁判所 令和8年4月13日判決)。なお私自身が判決文を確認したわけではありませんので報道されている情報から確認できている事実関係をベースに記載したものであることをご了承ください。
① 事案の概要
東京ガスの男性社員(当時31歳)が自殺したのは、上司からの継続的なハラスメントが原因であるとして、遺族が国に対して労災認定を求めた事案です。この裁判で注目されたのは、上司が直接的な暴言を吐くだけでなく、「執拗な無視」「ため息」「不機嫌な態度を出し続ける」といった行動を日常的に繰り返していた点です。東京地方裁判所は、これらの「不機嫌な態度」等が労働者に過大な精神的負荷を与えたと認め、業務と自殺との因果関係(業務起因性)を認めて労災を認定しました。
② 弁護士の所感
これまでの実務では、「大声で叱責された」「無理難題を押し付けられた」といった、証拠に残りやすい明確な言動がパワハラの中心でした。しかし、本判決は「言葉にしない威圧(不機嫌な態度)」であっても、継続すれば労働者の精神を崩壊させるに足りる強い心理的負荷になると明確に示した点において、極めて画期的かつ実務に大きな影響を与えるものです。経営者は「言葉で怒鳴っていないからセーフ」という従来の認識を、今すぐ捨てなければなりません。
3. 企業がフキハラを放置するリスク
「あの部長は機嫌に波があるから、みんなで上手くやってよ」と、企業がフキハラを放置した場合、以下のような重大なリスクを背負うことになります。
(1)安全配慮義務違反による損害賠償責任
会社は労働者が安全に働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。フキハラを認知していながら放置し、社員がメンタルヘルス不調に陥ったり、最悪の事態(自殺等)に至ったりした場合、会社や経営者個人が数千万円から億単位の損害賠償請求を受けるリスクがあります。
(2)組織の生産性低下と「静かな退職」
フキハラを行う人間が1人いるだけで、周囲の社員は「次は自分が標的になるかもしれない」と怯え、過度なエネルギーをその人の機嫌取りに費やすようになります。報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が滞り、業務上のミスや不正の隠蔽にも繋がります。
(3)優秀な人材の流出と採用難(レピュテーションリスク)
現代の若い労働者は、職場の人間関係や心理的安全性を極めて重視します。フキハラが蔓延する職場からは優秀な人間から順番に辞めていきます。さらに、SNSや口コミサイトに「あの会社は上司の機嫌に振り回される」と書かれれば、採用活動は致命的な打撃を受ける可能性があります。
4. 組織を守るために企業が取り組むべきこと
フキハラという目に見えにくいリスクから組織を守るため、経営者が今すぐ着手すべき対策は以下の4点です。
(1) 就業規則・ハラスメントガイドラインの改定
まず、「不機嫌な態度による威圧」もハラスメント(パワハラの一種)に該当し得ることを、社内規定やガイドラインに明記しましょう。「どのような行為が処分対象になるのか」の基準を可視化することが、抑止力の第一歩です。
(2)管理職向け教育の徹底(「感情マネジメント」の導入)
フキハラを行う上司の多くは、自分の態度がハラスメントになっている自覚がありません。「不機嫌で部下をコントロールしようとすることはパワーハラスメントである」という認識を植え付ける研修が必要です。あわせて、自身の怒りやストレスを制御する「アンガーマネジメント」の研修を導入することも有効です。
(3)相談窓口の機能強化(客観的証拠の残し方の周知)
フキハラは言葉に残りにくいため、被害者が相談を躊躇しがちです。「態度」に関する相談であっても真摯に受け付ける体制を整えてください。また、相談を受ける際は、被害者に対して「いつ、どのような態度(舌打ち、書類の叩きつけ等)をされたか」を日記やメモに記録しておくよう促すことで、客観的な事実把握がスムーズになります。
(4)早期の事実調査と毅然とした処分
フキハラの疑いが生じた場合、会社は速やかにヒアリング等の調査を行う必要があります。事実が確認された場合は、「これまでの功績があるから」「優秀なプレイヤーだから」と妥協せず、就業規則に基づき注意・指導、場合によっては懲戒処分を毅然と行う姿勢が、社内の心理的安全性を確保するために不可欠です。
5.まとめ
フキハラは、職場の空気を腐らせ、最終的には企業の土台を揺るがす重大な「労務リスク」です。「たかが機嫌の問題」と軽視せず、企業の社会的責任として、トップ自らが「我が社は不機嫌による支配を許さない」という強いメッセージを発信してください。
対策の進め方や、実際のトラブル対応でお困りの際は、手遅れになる前にぜひ当事務所へご相談ください。貴社の組織を守るための最適な労務マネジメントをサポートいたします。
6.当事務所のサポート内容
当事務所は多くの会社の顧問業務を日常的に行っており、その中でハラスメントがあった場合の対応、ハラスメントの申告があった際の調査方法、ハラスメントと評価できるかどうか等について相談を受けることが少なくありません。セクハラについての相談を受けることはかなり減りましたが、パワハラ、カスハラについての相談は増加傾向にあると感じています。フキハラというワードの認知度が上がりつつありますが、それ以前からフキハラと思われる行動を常態化させている問題社員への対応についての相談は数多くありました。
どのハラスメントであれ、ハラスメント問題を抱えている会社は多かれ少なかれ職場環境が悪化しますし、多くの離職者を出す潜在的なリスクを抱えていると思います。このような相談への対応を日常的に顧問業務の範囲内で行っている次第です。日頃から顧問業務としてハラスメント問題以外の色々な相談に乗っていると会社の内情や人間関係がわかりますし、適切な対応を指示しやすくなると考えております。
弁護士は紛争が生じてからようやく相談するところではなく、日常の中で困ったことがあればすぐに相談して悩みから解消されるのが最も合理的であり、この点についてはハラスメント問題に限らず、どのような法律問題についても言えることだと思います。日頃から困ったことがあればすぐに弁護士に相談できるようにするために当事務所との顧問契約を検討されたい会社経営者の皆様、法務担当者の皆様は遠慮なくお問い合わせください。
文責 弁護士 濵田 諭
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