ローパフォーマーの問題社員への適切な対応方法とは?弁護士が解説
今回は問題社員の1類型である能力不足社員(ローパフォーマー)について弁護士の立場からお話ししていこうと思います。
お話しする項目は以下のとおりです。
1 ローパフォーマーの問題社員とは
2 ローパフォーマーを放置するリスク
3 ローパフォーマーへの対応方法
4 法的リスクを避けるためのポイント
5 問題社員対応に関して弁護士に相談するメリット
6 当事務所がサポートできること
それでは早速内容に入っていきましょう。
1 ローパフォーマーの問題社員とは
(1) 同じ失敗を繰り返す
同じミスを何度も繰り返すということは,ミスの際にどうしてそのミスが生じたのか,そのミスが次に生じないようにするのかに思いが至らない,考えが及ばないということです。これが繰り返されるということは能力不足を顕著に示すものだと思います。
(2) 仕事に対する姿勢が消極的
仕事に対してやらされているという意識が強く,指示されたことだけをこなせばよいという意識の社員は手が空いても周囲のサポート等をすることなく,上司が常に手が空いていないかをチェックして指示をしないと動かないという意味でローパフォーマーと言えると思います。
(3) コミュニケーション能力が低い
周りと上手くコミュニケーションが取れないと自分がわからないことを質問できない,自分の悩みを上手く伝えることができずに自分の判断で業務を行い,会社の意図していない問題を引き起こすことになります。このコミュニケーション能力の低さゆえに「同じ失敗を繰り返す」ことにつながるという面もあります。
(4) 能力不足の自覚がない
ローパフォーマーの中にはなぜか自分には能力があるという意識が強い方がいます。自分の問題点や能力を意識する能力がないから意味不明な自信を持っているのだと思いますが,自覚がないかからミスをしても自分のミスではないという他責的な思考となり,自分の問題点を顧みない,反省しないということとなり,これは「同じ失敗を繰り返す」という問題行動につながることになります。
また,このコミュニケーション能力の低さは取引先との間で余計な問題を引き起こしたり取引先の意向を理解できない結果,取引における重大なミスを引き起こしたり,取引先の担当者との間で余計なトラブルを招いたりして会社に重大な不利益(取引がなくなる,取引量が減る等)を及ぼすことにつながりかねません。
(5)勤務態度に問題がある
ローパフォーマーの中には遅刻,早退を繰り返す,言葉遣いが悪い,勤務時間中外回りでないのにふらっといなくなり喫煙しているなど勤務態度に問題があるタイプがいます。勤務態度が悪いのに良いパフォーマンスをあげる社員は少なく,勤務態度に問題があり,かつローパフォーマーであるという社員の方が多いと思います。
2 ローパフォーマーを放置するリスク
(1) 周りの社員の負担
ローパフォーマーが一人いるとしても会社はきちんと業務を回していかなくてはいけません。そうするとローパフォーマーが出来ない仕事を周りの社員がカバーすることになり,上司はローパフォーマーの指導,監督に時間をとられることになるなど同僚,上司など周りの社員には大きな負担がかかります。
(2)組織としての生産性の低下
周りの社員の負担とも重複するのですが,ローパフォーマーが1人いることで,社員1人欠けているのと同じ状態またはそれよりも業務効率が悪くなる(自分の業務に加えてローパフォーマーの業務を行う社員がいる場合,他の部下に加えてローパフォーマーの指導監督に時間をとられる上司がいる場合)ことも考えられ,会社の生産性は低下することになります。
(3)優秀な社員の離職
ローパフォーマーのサポートや後始末をさせられるのは自分の仕事をきちんとこなせる優秀な社員であることが多いです。同じ待遇なのにつまらない後始末をさせられ,自分が起こしたミスではないのにその後始末に伴うストレスが大きいと,この会社ではなく別の会社で働いた方が自分の能力向上につながる仕事,やりがいのある仕事ができるのではないかと考えるようになります。優秀な社員から離職していくリスクが高いです。
3 ローパフォーマーへの対応方法
(1)明確な目標を設定した指導・監督とその結果の検証
例えばミスが多い社員にはミスをなくすという目標を設定して,その目標を達成するために今までに起きたミスの理由の検証をして自覚させ,ミスをなくすために今後はどのようなことを心掛けるのかを意識させます。その際にどのような目標設定をして,ローパフォーマーがどのようなことを行ってミスを減らしていくのかを文書に書かせて,それをどのくらいの期間で検証するのかを決めて期間ごとに目標達成ができたかどうかを検証します。
このサイクルを繰り返していくことです。
(2)(1)を踏まえて必要に応じた退職勧奨
(1)のサイクルを通じてローパフォーマーの能力に成長が見られてミスが減るなどの効果が生じればそのまま進めていけばよいと思います。しかし,このサイクルを繰り返しても能力不足の改善が見られない場合には,「うちの会社の業務に向いていないのではないか」「もっと自分の能力を発揮できる会社があるのではないか」といったニュアンスで退職勧奨をするのが良いと思います。
(1)のサイクルを繰り返しても能力の改善が見られない場合,ローパフォーマー自身にもこの会社には必要とされていないのではないか,この会社の業務に自分は向いていないのではないかとの考えが生まれることも少なくなく,会社からやんわり退職するという選択肢もあるよと告げられると退職を検討する方もおられます。
(3)(1)(2)が功を奏しない場合
この場合にようやくローパフォーマーについて能力不足を理由とする解雇をすることを検討することになります。解雇は最終手段であり,解雇をする前にも「このままだと会社から雇用を切るような形も検討しなくてはいけなくなりそうだけど,それよりは自ら身を引いた方が自分のキャリアに傷がつかないのでは?」等と退職勧奨をして何とか退職の方向で解決するように努力をしていただくことをお勧めします。
また解雇をするのではなく,会社都合での退職で処理すること,一定の解決金を支払うことを条件に退職してもらうという交渉をすることを先行させるという方が穏当ですし,不当解雇と裁判所に評価される場合のリスクを考えると退職で処理するために会社が一定の解決金を支払うという解決手法をとることも合理的だと考えます。
4 法的リスクを避けるためのポイント
ローパフォーマーの教育・指導は労力と根気を要するものであり,それに耐えかねて解雇といった最もリスクのある方法をとって楽になりたい,すっきりしたいという気持ちが生じることは理解できます。
しかしローパフォーマーに対して十分な指導・教育,その検証をしないで行った解雇の不当解雇となります。不当解雇となると解雇時以降も賃金が発生し続けることとなり,法的紛争が長期化するとローパフォーマーであった社員に対してバックペイ(解雇時まで遡って支払う賃金)に加えて将来の賃金の何か月,または何年分の賃金相当額を解決金として支払わなくてはいけなくなったり(退職を前提とする解決をする場合),職場復帰を認めなくてはいけなくなったり(社員が退職に応じない場合)と会社にとっては大ダメージになります。
このことから前述のように教育・指導を行ってその結果を検証しつつ退職勧奨を組み合わせるなどしてローパフォーマーが自ら退職する方向で進めていくのが妥当です。
ローパフォーマーの中には会社の業務や方針とのミスマッチでローパフォーマーになっている人も含まれており,退職して新天地で働くことで能力を開花させる方もおられますので,そのような視点でローパフォーマーへの教育・指導やその過程での退職勧奨を行われるのが妥当ではないかと思います。
ローパフォーマー社員から退職という形で処理することで雇用契約の解消をめぐるトラブルのほとんどを避けることが可能ですし,解雇の場合と異なり退職自体が無効であるとの主張・立証は労働者である社員側にありますのでトラブルになった場合も使用者である会社側が有利に対応できます。
このことから解雇の前に退職勧奨,退職を前提とした条件交渉をする方が解雇するよりも合理的な判断であると考えます。
5 問題社員対応に関して弁護士に相談するメリット
問題社員対応のうちローパフォーマーを会社が期待する水準の能力を有する社員にまで育成するための手法やノウハウは弁護士マターではありません。しかしローパフォーマーに対してどのようなスタンスで育成し,その結果,ローパフォーマーである状態が改善しなかった場合に会社が法的にどのような対応をするのが妥当かは弁護士マターとなります。前述しましたが,ローパフォーマーが会社の教育・指導の結果,平均的な能力を有する社員に成長するのが理想です。
しかし最終的には雇用解消も視野に入れてどのようにローパフォーマーに対処していくかを知り,実行し,不幸にしてローパフォーマーであり続けた場合に法的にリスクが小さい手法をお伝えできるのは弁護士だけです。
6 当事務所がサポートできること
当事務所ではローパフォーマーを含む問題社員への対応について多くの法人の顧問業務を通じて日常的にアドバイスをし,不幸にして民事訴訟等の法的紛争に発展した場合の案件対応をしております。
スポットでの相談も受け付けておりますし,問題社員対応についてすぐに電話やメールで相談したい,困ったときにはすぐに相談できる顧問弁護士を信頼できる弁護士に依頼したいというご希望がありましたら気軽にお問合せいただけると幸いです。
当事務所では会社の規模や社員数,希望される業務の内容等に応じた顧問プランを準備しております。悩みを抱えている時間も目に見えないコストです。問題社員対応はもちろん労使関係のお悩み,取引先との契約,売掛金の回収など弁護士に相談すること,すぐに相談できる顧問弁護士がいることの安心感には顧問料をはるかに上回る価値があることを実感していただけると思います。
文責 弁護士 浜田 諭