就業規則

就業規則におけるよくあるトラブル

当事務所に相談に来られる会社,法人のほとんどが就業規則を作成されておられますので就業規則がないことでトラブルになったというケースを経験することがほとんどありません。

 

一方で日常の労務管理の悩み,労使間の紛争について相談を受ける際には必ず就業規則(賃金規定等を含む)を見せていただくことにしておりまして,そこで就業規則に本来あるべき規定が存在しないことに気づいたり,存在しているものの不十分であることが判明したり会社の実情に合わない規定が存在していて,これ必要ないんじゃないと思ったりすることは珍しくありません。

 

以下は普段,使用者側の立場に立って労務管理や労使紛争対応の業務を行っている弁護士として就業規則を確認する際に気になること,不備や不十分であることに気づくことが多いもの等についてお話していきます。

(1) 労働時間

個々の労働者を採用する際には労働条件通知書を会社から渡していると思いますが,まず就業規則において所定労働時間や休憩時間がどのようになっているのかが気になります。

ちなみに変形労働時間の規定がある会社を見ることもありますが,実際にはきちんと運用されておらず変形労働時間が存在している前提で問題解決に当たれるケースはかなり少ないと思います。

(2) 時間外労働

直近の労働法制がきちんと就業規則に反映されているかが気になります。1か月60時間を超える法定時間外労働の割増率は50%以上になっているか,2024年以降の運送業界などについては年間の時間外労働の上限が960時間となりますので,そのあたりも就業規則に反映されているかが気になるとところです。また労働時間規制の適用除外者がいないかどうかは気になります。特に管理監督者の名目で時間外労働について残業代を支払っていない企業もありますので管理監督者についての規定はないか,ある場合にはどのような人が管理監督者と評価されて労働時間を管理されているのかは気になります。裁判において「管理監督者」と評価される労働者は限られており,安易に従業員を「管理監督者」扱いしている企業はコンプライアンス意識の低い企業であり要注意だと考えています。

(3)賃金制度

固定残業代と評価される手当が存在しないかどうか,何に対する手当かが不明なものがないかは気になります。固定残業代制度はきちんと運用しないと未払い残業代をめぐる紛争が生じた際に,制度の有効性が認められずに未払い残業代の額が跳ね上がることも考えられますので,就業規則にどう定められているのか,どのように運用されているのかはチェックが必要なポイントとなります。

(4) 退職金制度

退職金規定の存在など就業規則において退職金制度があるかどうかも気になるポイントです。問題社員に対して退職勧奨を行う場合,それに応じて従業員が退職する場合にどの程度の額の退職金を支払わなくてはいけないのかは確認しておく必要があります。

仮に退職金についての規定がない場合や退職金規定はあるものの問題の社員が規定の要件を満たさずに退職金を支払う必要がない場合において退職勧奨を行うケースでは,本来支払う必要がない退職金を支払うことが会社側(使用者側)の譲歩になりますので交渉の選択肢が増えることになります。

(5) 休職と復職

体調を崩した社員,特にメンタルヘルス不調の社員について休職命令を出すケースがありますので休職周りの条項がどうなっているかは気になります。休職の根拠規定がどうなっているのか休職期間がどうなっているのか,復職についてはどのように定められているのか,復職不相当と会社側が判断した場合の取り扱い(休職期間満了日をもって退職とされているか等)はチェックします。

きちんとした規定が設けられていても,その通りに運用しないとメンタルヘルス不調を訴えていた社員との間での紛争に発展する可能性があるからです。

(6) 服務規律

問題社員について問題行動を指摘するための根拠となりますので,どのような定めになっているのかをチェックします。ハラスメントについて個別の規定を設けていない会社ではここにハラスメントについての規定が存在することになります。セクハラ,パワハラ,マタハラなどですね。
また,秘密保持,副業・兼業禁止,競業の禁止も服務規律の章に設けられていることがほとんどだと思いますので,特に会社を退職して同業他社に就職する人,退職後に同業を立ち上げて顧客情報を持ち出す可能性がある社員がいる場合にどのように対処するのかを考える際に参照します。

(6) 懲戒

問題社員に対して懲戒処分を下す場合に,懲戒事由がどうなっているのか,懲戒の種類・程度,懲戒手続がどのように定められているのかを確認します。

問題社員に懲戒処分を下すまでの間,自宅待機を命じることが必要なケースもありますので,根拠となる規定があるのかどうかをチェックします。また懲戒処分の概要を社内で公開する必要があるケースもありますので,公表の根拠となる規定があるのかどうかも確認することがあります。

就業規則の変更等について弁護士に依頼するメリット

就業規則の効力に関する実際上最も重要な問題は,使用者が就業規則の規定を新設ないし変更することによって労働条件の内容を変更することができるかであり,この点について弁護士に助言を求めながら進めていく方が無難です。

 

問題なのは労働条件を労働者にとって不利益に変更する場合です。就業規則を作成する場合に就業規則の規定内容の合理性が要求されるのですが,変更の場合も同様です。さらに労働条件の不利益変更を伴う場合には,その合理性について厳格に判断されることになっています。すなわち労働契約法10条では不利益変更の場合の合理性判断は,

① 労働者の受ける不利益の程度
② 労働条件変更の必要性
③ 変更後の就業規則内容の相当性
④ 労働組合等との交渉の状況
⑤ その他の就業規則の変更にかかる事情

を総合考慮して行うとされています。
使用者としては合理性が認められるような対応,変更をしなくてはならず,この点については弁護士に相談して進めることをお勧めします。

 

① の不利益の程度については,個別労働者の観点と対象者全体の観点では評価が異なることもあります。例えば賃金制度の改定を行う際,この不利益変更によって個々の労働者が不利益を被ることがあっても,全体としては賃金の支給水準が下がっていないケースがあります。

 

こうした場合の不利益変更の合理性について第一小型ハイヤー事件(最高裁平成4年7月13日判決)は「全体として新制度が旧制度を下回らず,それが労働強化によるものでなく,労働者に不測の損害を被らせるものでなければ,変更の合理性が是認され得る」と判断しています。このような判例も参考にしつつ,不利益が生じる労働者に対する代償措置もとりながら合理性が認められるような対応をしなくてはいけないことから弁護士,特に労使紛争において使用者側で対応した経験の多い弁護士に相談しつつ進めていくのが良いでしょう。

当事務所でサポートできること

(1) スポット案件として

就業規則の変更にあたって不利益変更と評価される変更かどうか,変更が有効と評価されるためにどのような事情や手続が必要かどうか等について会社からの相談に対応しております。相談時間内での対応が難しい場合には,期間を定めてその期間内に就業規則の変更等についてご依頼いただくこともございます。

 

就業規則の作成,変更自体が問題ではなく,会社が労働者に対して特定の対応を行おうとする場合に,就業規則のどの条文を根拠にどのような対応をとるべきかについての個別のご相談にも対応しております。例えば問題社員がいて,このような行動をしているのだがどの条文を根拠にして,どのような懲戒処分を下すべきかという相談をいただくことは多いです。このような相談のほとんどは顧問先からの相談ですが,まだ顧問弁護士がいない会社からスポットで相談を受けるケースもありますし,それをきっかけに顧問契約を締結していただく会社も少なくありません。

(2) 顧問先向けのサービスとして

顧問先企業には自社の実情を踏まえた就業規則が既に存在している状態ですので,一から作成を依頼されることは,ほとんどありません。しかし新しい法律が施行されたり,厚労省から通達が出されたりすると,それを踏まえてこのように就業規則に変更したけど大丈夫でしょうか?といった相談が来ることはあります。自社で変更案を作成されるケースと社労士の先生が作成されるケースの2パターンがあります。もちろん後者の方が問題のないことが多いです。

 

この場合には就業規則の気になるポイントをご指摘いただき,そこを中心に問題がないかをチェックして意見を申し上げるということをさせていただいています。また前述しましたように就業規則単体での問題に先に気づいてご相談いただくケースよりも,会社から相談を受けた当事務所の弁護士が個別の対応にあたって就業規則を参照し,そこで規則の不備や問題点に気づくことが多いところです。その際には弁護士が気づいた点についてご指摘して変更をお勧めいたします。そして実際に変更する場合に,変更案を検討する,不利益変更にあたらないかを検討する,不利益変更にあたるとしても合理性が認められるような変更手法について顧問先と協議して立案し,実行していただくことも対応させていただいております。

 

当事務所の顧問契約について興味をお持ちの会社経営者の方,人事担当者の方からの問い合わせをお待ちしております。

 

文責  弁護士 浜田 諭

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