トラック運送業における労務管理 その32-弁護士が考える物流・運送業の人手不足とその対処方法とは-

物流・運送業の現状と動向

国土交通省の調査によると,トラック運送事業者の数は平成31年3月現在,6万2,068者,その99%以上が中小企業(資本金3億円以下又は従業員30人以下)となっています。

平成2年の貨物自動車運送事業法の施行以降,トラック運送事業の規制緩和によって新規参入事業者が急増し,平成19年度末には6万3,000者となりましたが,それ以降は輸送需要が伸び悩むなかで事業者間の競争が激化し,事業者数はほぼ横ばいで推移しています。トラック運送業は典型的な労働集約型の産業であり,運送コストに占める人件費の割合比率が約4割前後となっています(燃料油脂費は13.5%)。

 

このような特徴を持つトラック運送業ですが,社会の少子・高齢化が進む中,若年労働者の事業従事者は減る一方であり,自動車運送事業は中高年層の男性労働力に強く依存しています。そして,道路貨物運送事業の賃金水準は全産業平均に比べて低い水準で推移する一方でトラックドライバーの年間労働時間は,全産業平均と比較して長時間となっています。

具体的に言えば,大型トラック運転者で432時間(月36時間)長く中小型トラック運転者だと384時間(月32時間)長いという統計結果が出ています。このことが原因の一端だと思いますが,運送業界全体が深刻な人手不足の状態にあります。

2021年(令和3年)10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.15倍でした。

このうち輸送・機械運転の職業のうち「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2.05倍,新規求人倍率は3.10倍であり,物流・運送業界の人手不足は統計上も明らかではないかと思います。

 

出典:厚生労働省 一般職業紹介状況(令和3年10月分)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22271.html

 

これはEC利用によってインターネット取引が増加して運送需要が高まっていることなどが要因として考えられます。令和2年には新型コロナウイルス感染症の感染拡大による外出自粛などを受けて宅配需要が急増しています。

また,令和3年2月の厚生労働省の統計調査によると労働者不足が調査を行っている12業種全体の労働不足指数が27であるのに対して運輸業・郵便業の労働不足指数が34となっており,他の業界と比較した場合にも人手不足の傾向が顕著だと言えそうです。

 

出典:厚生労働省 労働経済動向調査(令和3年2月)労働者の過不足状況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/1911/dl/kekkagaiyo.pdf

 

物流・運送業が人手不足になる要因

トラックドライバーの労働環境

前述のように道路運送貨物事業における賃金水準は全産業平均よりも低い水準にある一方でトラックドライバーの労働時間は全産業平均と比較して長時間となっています。

もちろん,歩合制の採用などによってドライバーのインセンティブ及び賃金水準を上げておられる運送会社も多くありますが,年功序列が残っている会社も多く若年労働者の賃金水準は低い会社が多いように見受けられます。

また,トラックの積載率が悪かったり荷物の積み下ろし等でかかる荷待ち時間が長く,労働時間が長くなる傾向にあります。そして,この労働時間について正確に把握して賃金計算を行って賃金を支払っている事業者は多くありません。

トラックの積載率については各社の努力で改善できますが,荷待ち時間の発生については荷主との関係もあって,その防止についての自助努力に限界があると思います。

 

労働者の高齢化等

運送業界ではその労働の担い手は40代,50代の男性が主力であり,60代以上のドライバーの割合は年々高くなっているところです。自分よりも年齢の高い労働者が多く,かつ年功序列が根強く残っている会社が多い,この業界においては若年労働者を採用するのが難しいという問題もあります。

また女性労働者にとって働きにくい職場であるというイメージが強く,女性の求職者が多く確保できないこと,そもそも業界の方でも内勤の職員以外では女性の雇用に積極的ではなかった側面もあると思います。

女性ドライバーの数が少ない現状は,女性にとって働きやすい職場にしてこなかった業界側の問題,荷物の積み下ろしといった重労働をドライバーがしなくてはいけないような業務フローになっていることが問題ではないかと思います。

 

労働生産性の問題

荷主の都合によって物流量が変わり,それを受けて運送業者が限られた人員をやりくりしながら突発的に発生した事態に併せて人やトラックを手配して荷主のニーズに応えていくという状態が多く発生する業界で,労働生産性が高い業界とは言い難いと思います。

労働生産性が低いと結果的に労働時間が増えて,労働時間が増えると事業者が労働者に支払うべき給与が増えます。給与が増えると人件費が増えて事業者の収益構造は悪化します。労働時間の増加は労働条件の悪化につながります。そして,これは後述の人手不足につながる要素です。事業者の収益構造の悪化は,すなわち事業の経営状態への悪影響です。労働生産性の低さは様々な問題につながるものであり,逆に言えば労働生産性の向上によって様々な問題が解決できる可能性があります。

 

物流・運送業の人手不足に有効な対策方法

労働環境を整えること

①給与の低さの改善

物流・運送業に限ったことではありませんが,給与の高い企業ほど人材の確保に成功している傾向にあります。人件費にどの程度を避けるかは会社がどの程度売り上げているか,他の経費を抑えて人件費に資金を回せるのかによるでしょう。各社の経営努力が必要ですが,経営の合理化にはICTやAI(人工知能),RPA(ロボティク・プロセス・オートメーション)を活用した業務プロセスの自動化が必要ではないかと思います。経営の合理化によって生み出した利益を人件費に回して,よりよい人材を確保するというプラスのサイクルを回せるようになると良いでしょう。

 

②長時間労働の改善等

荷待ちやラストワンマイルでの再配達などドライバーについては長時間労働が構造的に生じてしまう業界であり,この部分について各事業者ができることは少ないと思います。しかし,それ以外の部分(内勤者,配車係の労働時間等)については長時間労働をある程度減らすことは可能です。また長時間労働を減らすという視点とは別に実労働時間に見合う賃金を支払うという対応も重要です。

物流・運送業界においては,実労働時間を把握できていなかったり,実労働時間を把握できているにも関わらず労働時間をもとに賃金計算して支払っていないケースが見受けられます。長時間労働に見合う賃金が支払われていないことが物流・運送業界において人手不足が深刻になっている1つの原因になっているのかもしれません。労働時間に見合う賃金をきちんと計算して支払う会社であるということは,それだけで他の会社と差別化することができる要素になると思います。無駄に長時間労働をすれば残業代が増えるという意識の労働者には長時間労働を抑制する策が必要ですが,構造上生じてしまう長時間労働についてドライバーを含む労働者に労働時間に見合う賃金を支払うのは経営者の責任だと思います。

この責任を全うすることで会社の労働環境が良いことが求職者に伝わり,良い人材の確保につながるのではないでしょうか。

 

女性・外国人労働者の積極的な採用

少子高齢化社会において若年労働者に業界の魅力を伝えて業界に誘因することももちろん重要ですが,女性や外国人労働者の積極的な採用も必要になると思います。雇用条件の工夫や作業内容の合理化によって女性にとっても働きやすい職場に変えていくことは可能ですし,外国人雇用のハードルも少しずつ下がりつあり,現在,社会において十分に活躍の場を与えられていない女性や労働者の雇用を進めていくことは企業のイメージを上げることにもつながるでしょう。企業のイメージアップは求職者の増加につながります。増加するのは女性や外国人労働者の求職者だけではなく幅広い年齢層の求職者になるのが予想されます。

 

ICT等の活用

物流・運送業界において労働生産性の低さを改善する取り組みが始まっています。ICT(情報通信技術)を活用したテレマティクス(移動体通信システムを利用して車両管理情報を提供するもの),この1例であるGPS機器を活用した車両動態管理システムの利用によって安全運転や省エネ運転を可視化し,車両の運行・動態管理を通じて輸送の効率化を図ることができます。

配車支援・計画システムの利用によって,受注情報(荷物)を車両(ドライバー)に効率的に割り当てることができるようになっています。これは受注情報をもとに配車当日の荷物のピッキング作業,積込み作業,トラックの配車や配送ルート等を自動計算し,その結果をパソコンの画面や紙面に出力し,ドライバーや倉庫作業係に指示するなどの一連の業務を支援するもので業務の効率化につながります。またIT点呼の利用によって点呼業務を効率化することが可能です。この点呼業務についてはロボットを点呼補助器として活用するロボット点呼も普及する可能性があります。

業務内容の合理化は,ドライバーをはじめとする物流・運送業界の一線で働く人々の無駄な作業,手待時間を減らし労働時間の減少といった労働環境の改善につながります。

 

当事務所がお役に立てること

労働条件の改善に向けた法的アドバイス

当事務所が物流・運送業界の経営者の皆様にできることはドライバーなど労働者の労働条件改善へのサポートとなります。労働条件改善自体には法的なサポートが直接お役に立てないかもしれませんが,労働条件を改善するためにこうしたいという経営者の方のアイデアについて法的な側面から問題点の有無や解決方法をお伝えする,労働条件の改善に向けてこのような方法はいかがでしょうかとご提案することは可能です。

現在,法的な観点から改善を要する状態であるのかどうか,会社の経営上の視点とコンプライアンス的な視点とのバランスをとってとられている(であろう)対策(例:固定残業代)が本当に有効かどうかの評価,これは弁護士が得意とする分野です。そして有効でない場合には,どのように改善すれば有効に機能するのか対策を考えて実行するお手伝いをします。

 

問題社員対応

人手不足の現状は問題社員を雇用せざるを得なくなることにもつながり,雇用してしまった問題社員の問題行動に適切な対処をしないと事業所の労働環境全体が悪化して貴重な職員の離職を増やす可能性があります。問題社員に対してどのような対応をするのがベストなのか懲戒制度の利用については弁護士のアドバイスを聞かれるのが最もリスクが小さいでしょう。

 

当事務所の理念

物流・運送業界の皆様がそれぞれの立ち位置において,自らの努力だけでは変えられない構造や業界独自の問題点,市場の動向といった事情に振り回されながらも日々努力をされて売り上げを確保し,経費を抑えて収益構造を維持されているのは理解しているつもりです。ドライバーや労働者が大事であることは経営者の皆様は理解しておられると思いますし,一方でその事業所において人件費として割ける金額にも限界があるということもその通りだと思います。良い労働条件を提示すれば求職者が増えて,結果的に良い人材を雇用できるということも理解されていることでしょう。本音と建前,理屈と実践,相矛盾する要請や対立する利益の調整で経営は行っていくものだと思います。

 

当事務所は法律事務所ですので,本来はこうあるべきであるというべき論も示しますが,各事業所の事情を正確に理解し現実的に実践できる解決方法を経営者の方と一緒に考えていきます。

コンプライアンス(法令順守)を重視しつつ,各事業所の実情に合わせて可能な対策を考えて実行する,実行した結果,発覚した問題点については対策を考えて実行して改善していくというPDCAサイクルを回していく取り組みを法律事務所の立場でサポートします。

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