クリニック・医療法人
医療業界の現状
厚生労働省が行った令和元(2019)年医療施設(動態)調査・病院報告の概要によると全国の医療施設は179,416施設で,前年に比べて326施設増加しています。
医療施設のうち「病院」は8,300施設で前年に比べ72施設減少しており
「一般診療所」は102,616施設で511施設増加,
「歯科診療所」は68,500施設で113施設減少しています。
一般病院においても一般診療所においても療養病床を有する施設は減少しています。
診療科目別でいうと「5 腎臓内科」「7 糖尿病内科(代謝内科)」などが増加、
「1 内科」「13 小児科」「16 外科」などが減少しています。
また令和元年中における全国の病院の平均在院患者数は,前年に比べて1.0%減少しています。これらのデータは新型コロナ感染症が蔓延する前のデータであり,令和2年以降には大きな変化が見られるかもしれません。
また医療業界は人材不足が常態化しています。超高齢化社会(2025年問題)に向けて増え続ける患者に対して医療に従事できる医師や看護師の数が不足しており,需給のバランスがとれていません。
人材不足は既に稼働している医師や看護師の過重労働につながることも多く,休職や離職も多く生じている業界だと思います。このことは労務問題の発生につながりやすい要素だと思います。
ケース別にみる医療機関との関係
医療業界のなかでも、関係先によって経営上発生する課題も多く、対応には注意が必要です。
患者との関係
インターネットが普及し医療情報を多くの人が入手しやすくなった現代社会においては,
自らの状態を判断して医療機関を受診し,自分の望む対処を医療機関がしてくれないと
クレームを入れてくるという患者(モンスターペイシェント)が現れる可能性は高くなっています。
医師には応召義務がありますので(医師法19条1項),厄介な患者であるとスタッフが判断した場合にも
迂闊に診察治療を拒否できないというマインドが生じやすく,モンスターペイシェントの問題は日常の医療において
業務の効率や現場に働く医師・看護師のモティベーション低下やメンタルヘルスの問題にもつながりかねません。
もちろん,医療ミスが起きた場合に適切な対処をして深刻な法的紛争を防ぐという必要もあります。
なお,統計上,医療関係の訴訟については2018年が773件,2019年が828件,2020年が834件と
800件前後を推移しており,裁判所での平均審理期間は2年強となっているようです(最高裁判所 医事関係訴訟事件統計)。
長い時間がかかり物心両面での負担の大きい医療訴訟に至らないように,インフォームドコンセントの徹底,
医療ミスが生じにくい体制づくり,医療ミスが生じた場合の適切な対処を心掛けたいところです。
スタッフとの関係
先ほど述べましたように医療機関で働くほぼすべてのスタッフについて人手不足の状態にあると思いますし,
このことが招く過重労働はスタッフとのトラブルを招く最大の要素です。
また人手不足の状態は問題のあるスタッフへの対処にも影響を与えます。問題行動があっても
毅然とした対応をとると退職するのではないか,退職されると現場が回らなくなるという懸念から
きちんとした対応をすることなく事態を悪化させるというケースも見受けられます。
医療機関において労使問題は避けて通ることができない法的リスクです。
それ以外の関係機関との関係
医療機関に対して厚生局からの個別指導が行われることがあります。この個別指導とは,診療について
保険請求が適切かどうかを確認して保険診療のルールを周知徹底するために行われる
医療機関や保険医への指導を指します。その根拠条文は健康保険法73条,国民健康保険法41条です。
(以下引用)
健康保険法(厚生労働大臣の指導)
第73条
保険医療機関及び保険薬局は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣の指導を受けなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の指導をする場合において、必要があると認めるときは、診療又は調剤に関する学識経験者をその関係団体の指定により指導に立ち会わせるものとする。ただし、関係団体が指定を行わない場合又は指定された者が立ち会わない場合は、この限りでない。
国民健康保険法(厚生労働大臣又は都道府県知事の指導)
第41条
保険医療機関等は療養の給付に関し、保険医及び保険薬剤師は国民健康保険の診療又は調剤に関し、厚生労働大臣又は都道府県知事の指導を受けなければならない。
2 厚生労働大臣又は都道府県知事は、前項の指導をする場合において、必要があると認めるときは、診療又は調剤に関する学識経験者をその関係団体の指定により指導に立ち会わせるものとする。ただし、関係団体が指定を行わない場合又は指定された者が立ち会わない場合は、この限りでない。
このように保険医療機関等には指導を受ける義務が設定されているわけですが,この指導の結果が要監査となってしまうと,監査対象となり,その結果いかんでは保険医の取消処分という最悪な事態を招きかねません。
意図的に不正請求をする医療機関,保険医の先生はおられないと思いますが,何らかの過失や現場への指導不足によって厚生局からの指導・監査という事態に巻き込まれるリスクはあります。
医療機関が抱える法的リスクの具体例
上記のような関係先との経営上の課題のなかでも法的課題については下記のような例が挙げられます。
クレーム・ハラスメント
患者の望む診療と医師が選択する診療とのミスマッチなどの理由によるクレーム,患者からスタッフへの
ハラスメント,診療報酬の不払い,これらを理由とする診療拒否ができるかどうか,
医療事故が生じた場合の対応など日常のトラブルというレベルから患者や患者の家族との訴訟といった
本当に深刻な事態まで色々な法的なトラブルが起こりえます。
労働問題
医師,看護師,理学療法士など多くの専門スタッフを雇用して日常の診療業務を行っておられる医療機関・クリニックにおいては,これらのスタッフの労務管理をきちんと行わないと雇用主に対して権利をきちんと主張するスタッフとの関係で深刻な労使トラブルにつながる可能性があります。
前述しましたように医療機関・クリニックにおいては慢性的な人材不足の状態にあり,雇用の流動性が高い業界だと思います。終身雇用という考え方が未だに根強い一般の企業とは異なり,その医療機関・クリニックでの労働条件や人間関係に不満があれば転職をすることが難しくなく,不満を持っている場合には表明し,不満が通らなければ退職するという選択肢もありますし,退職をきっかけに在職中の不満や問題(未払い残業代の問題など)を法的な紛争に持ち込む方も珍しくありません。
その意味では一般の企業よりも労務管理をきちんと行わないと法的紛争に巻き込まれるリスクが高い業界と言えると思います。
また,スタッフ同士のトラブルについても適切な対処を行わないとトラブルを起こすスタッフとの関係が嫌で本来は辞めてほしくないスタッフの方が退職してしまうという不幸な結果を招きかねません。
個別指導対応
先ほど述べましたように保険医等に対する調査・指導・監査については対応を間違えると最悪,保険医の取消しという取り返しのつかない事態を招きかねません。
取消処分は,保険医療機関にとって死刑と同じといえる程,致命的な措置です。
個別指導は避けられないとしても監査に至らないように普段から保険診療を適切に行っていく必要があります。
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医療機関対応の経験を多く持つ弁護士が対応
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しかし,医師の先生の個人の案件を複数担当したのをきっかけに医療法人の顧問業務を行うこととなり,また医療法人の労使紛争(訴訟)において法人側の代理人として業務を行ったのをきっかけに,顧問業務を依頼されるなどの不思議な縁で医療機関の日常の相談に対応するようになりました。
その中には対応を誤ると深刻なトラブルにつながりかねない案件もありましたが,早期に相談していただき,私のアドバイスに従っていただいた結果,トラブルを回避できたというケースもあります。
日常的な相談内容は労使問題が中心ですので,私自身が使用者側の代理人として労使紛争に関わってきた経験がお役に立てている面もあるでしょうし,顧問業務を通じて業界の内情を少しずつ理解して現場の実情をある程度理解できるようになったことでより現実的なアドバイスをできるようになったという面もあるかもしれません。
また,労使紛争に限らず係争案件を多く扱っていますので,患者さん,スタッフとのコミュニケーション,どのような体制を整備すれば医療ミスが生じづらいのか,ミスが生じた場合にどのように対応すれば深刻な係争に発展しないのかについて適切なアドバイスができるよう心がけております。深刻な紛争を多く扱ってきたことが予防的な対応へのアドバイスに生きている面もあるのではないかと思っております。
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