介護事業所の経営者様へ
介護事業を取り巻く現状
少子高齢化
令和3年度に内閣府が発表した高齢化白書によると日本の人口は令和(2020)年現在で1億2,571万人,65歳以上人口は,3,619万人です(https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html)。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.8%です。「65歳~74歳人口」は1,747万人で総人口に占める割合は13.9%,「75歳以上人口」は1,872万人で総人口に占める割合は14.9%です。
このままのペースで高齢化が進むと令和46(2065)年には約2.6人に1人が65歳以上,約3.9人に1人が75歳以上という超高齢化社会が到来します。
高齢化が進む一方で医学の進歩もあって平均寿命や健康寿命が延びていますが,介護や医療ケアが必要な人は増えこそすれ減ることはないと思われます。介護業界へのニーズは大きくなることこそあれ小さくなることは,あまり考えられません。
人材不足問題
こういったニーズの拡大もあって介護保険施設の施設数は以下のような動きとなっています。
(厚生労働省 令和元年 介護サービス施設・事業所調査)
施設 | 施設・事業所数 | 対前年比 | |
介護保険施設 | |||
介護老人福祉施設 | 8,342施設 | 137施設増加 | |
介護老人保健施設 | 4,337施設 | 2施設増加 | |
介護医療院 | 245施設 | 183施設増加 | |
介護療養型医療施設 | 833施設 | 193施設減少 | |
介護サービス事業所 | |||
訪問介護 | 34、825事業所 | 285事業所減少 | |
訪問介護ステーション | 11,580事業所 | 696事業所増加 | |
通所介護 | 24,035事業所 | 174事業所増加 | |
定期巡回・臨時対応型訪問介護 | 1,020事業所 | 45事業所増加 | |
小規模多機能型居宅介護 | 5,502事業所 | 33事業所増加 | |
複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護) | 588事業所 | 76事業所増加 |
一部,事業所数が減少した施設もありますが,ほとんどの事業所が増加しています。
介護事業に従事する介護職員(訪問介護員)の数は50万8,256人,通所介護は22万1,813人,介護老人福祉施設は28万9,271人,介護老人保健施設が12万8,897人との調査結果が出ています。
介護職員の数についても年々増加していますが,2025年には介護職員が約34万人不足するとの推計を厚生労働省が発表しています。先ほど述べました少子高齢化によって労働力人口は減少し,その影響は介護事業にも及ぶということですね。
そして介護職における1年間の離職率は16.0%(2019年度)であり,毎年5~6人に1人の介護職職員が事業所を去っていることになります。介護職員の数を確保しなくてはいけないニーズはあるものの労働人口が減るから採用対象となる人の数が減る,減った労働人口を他の業種と取り合うことになる,そして苦労して採用した人の多くの割合が離職してしまう,こうなると恒常的な職員不足に悩まされることになります。
これは介護職の労働条件の悪さ,端的に言うと賃金の低さも影響していると思われますので待遇を改善しないと職員の確保,維持が図れないことになりそうです。
2025年問題
1947年~1949年生まれの団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する2025年に介護,医療,社会保障関連の分野で人手不足や社会保障関連費用の急増など,さまざまな問題が顕在化すると言われています。
社会保障
人口の多い団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となると医療費や介護費用がこれまでよりも多くなりますから,それを支える若い世代の負担も大きくなるでしょう。
医療
厚生労働省によると医療保険の給付額は39.2兆円(2018年度)から徐々に増えていき2025年には総額で約48兆円に達すると見込まれています。病院と医師の不足も地域によっては深刻化するでしょう。
介護
2025年になると認知症高齢者の総数が730万人を超えるとの予測もあり,介護者と要介護者の両方が認知症となる認認介護の世帯が増えていくと言われています(厚生労働省 高齢社会白書)。
また親に経済的に依存している独身未婚者が親の死によって独居高齢者になってしまうという問題もあります。
介護業界が抱える法的リスク
介護業界では、主に下記のようなトラブルが発生しやすく法的なリスクが潜んでいます。
利用者・利用者の家族とのトラブル
介護の対象となるであろう高齢者の数は増えていきますが,サービスの利用者が増えるとその中には要求水準が高すぎる利用者や利用者の家族,職員に対してハラスメントを行う利用者(いわゆるカスタマーハラスメントです。女性職員に対するセクシャルハラスメントが例として挙げられます。)等が含まれることは避けられなくなります。
また利用者の金銭管理についても事業所が一定の線引きとその遵守をしておかないと利用者や利用者の家族との間でのトラブルが生じかねません。
利用者は利用者のご家族は本来,お客様ですが,だからといって不合理な対応について一方的に忍耐を強いられる必要はありませんし,毅然とした対応をすることがそれ以降のサービスの提供への支障を避けること,利用者対応に困った職員のメンタルヘルス不調の予防や離職を避けることにもつながります。
またトラブルが生じた後も事業所としてどこまでの責任をどのような根拠で認めて,どの範囲で責任をとるかといった事後対応についても適切な対処を誤ると事態の悪化につながります。
問題職員への対応
人手不足の状態は売り手市場(労働者側がどの会社にどのような労働条件で雇用されるのかについて主導権を持っている状態)であることを意味しています。介護事業所は人員を確保するためにそれまでの職歴や面接時に感じた違和感などにある程度目をつぶって採用に舵を切るケースが多くなることが想定されます。これはすなわち採用時のスクリーニング(ふるい落とし)が機能しないことを意味し,問題行動を起こしやすい,過去に問題行動で雇用主とトラブルを起こしたことのある方を職員として採用してしまうリスクが大きくなります。
実際,当事務所が顧問業務を行っている介護事業所からの相談で最も多いのは問題職員に対してどのような対応をすればいいでしょうか?という労務に関するものです。
職員の問題行動を踏まえてどのような対応が適切なのかを経営者が判断するのは非常に難しく,一時の感情に任せて解雇などの重大な処分をしてしまうとその代償は大きいものになります。
介護事業に限ったことではありませんが,それまではこの方法で上手くいっていた,解雇してもその職員から何の不服も出なかったという,たまたま上手く事が運んだ,職員が泣き寝入りをしたケースを成功経験として捉えている経営者の方をお見受けします。
このような態度では,多くの従業員が労使紛争に関する情報,労働者側で紛争解決に取り組む弁護士にインターネット経由で簡単にアクセスできる現在の社会においては通用しません。多くの労使紛争を抱えて,費用と時間と労力を費やすのは非生産的です。
それよりは日常の労務管理をきちんと行い,経営者は紛争の事後処理ではなく事業所の経営の維持・改善に注力すべきだと考えます。
介護事故への対応
介護事業所においては利用者の転倒,誤嚥,転落といった介護事故が歩行・移動中,食事中に起きているという調査結果が厚生労働省より公表されています(厚生労働省 「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」)。
介護事故が起きてしまった場合,その責任を事業所が負うべきことに争いがない場合には,事故の賠償自体は事業所が契約している任意保険を利用してカバーするケースが多くなるのかもしれません。
しかし,そもそも介護事故の責任の有無,責任の程度について争いが生じるケースもありますし,事故の発生後の事故状況の保全,保険会社への報告,関係者への聞き取り調査を適切に行わないと本来は責任がないと評価される可能性があるケースにおいて責任が認められるリスクが高くなりますし,保険適用に支障が生じるケースも考えられます。
また利用者や利用者の家族への説明・報告が不十分であると事業所への不信感を招き,利用者の退所・サービスの利用停止や法的紛争への発展につながりかねません。
行政からの指導,処分への対応
介護事業を行うにあたって行政からの監査・指導・監督を受けることは避けられません。
行政からの指導がすべて適切なものであるとは限らず,本来は介護報酬の返還までは必要とされないケースにおいて任意に介護報酬を返還するように求めたり,前任者との間で一定の解決が予定されていた問題について担当者の変更に伴い,行政の指導内容が変わるという事態が生じることがあります。
このような場合には,行政との関係悪化を恐れて行政の言いなりになる必要はありません。
根拠が明らかでない指導や対応については根拠を求め,行政が提示した根拠を踏まえても返還すべきと考えられる介護報酬は返還しないという毅然とした対応をとることが必要な場面もあります。
このような対応をとるには,それを裏付ける弁護士のアドバイスが必要になると思います。
当事務所の顧問契約の特徴
当事務所では、介護事業所の経営者様に向けて顧問契約をはじめとした法的サポートを行っております。
上記のような法的リスクの解決に向けたサポートはもちろん、法的問題が起きないような体制づくりのサポートも可能です。介護業界を理解した弁護士に依頼をすることによって、業種特有で起こりやすい法的な問題についても十分に理解をしたうえで最善な解決策をご提案いたします。
下記のような顧問契約の特徴を踏まえて、ぜひ依頼する弁護士の選定に役立てていただけましたら幸いです。
スピード
当事務所の顧問契約の特徴は担当弁護士からのレスポンスの早さです。メール等での問い合わせ・相談の内容を認識したらできる限り速やかに返信し,即答できないもの,時間的な猶予を頂かなくては回答できない相談・問い合わせにつきましてはいつ頃までに回答できるかを速やかにお伝えいたします。
弁護士に連絡したけど折り返しの連絡がない,メールが返ってこない,本当に弁護士に要件が伝わっているのだろうか?といった不安を感じていただくことがないように日々このスピードは意識して業務を行っております。
経験豊富な弁護士が対応
顧問業務については弁護士登録14年目で使用者側の労務問題(交渉,労働審判,民事訴訟等),法人の訴訟等の民事係争案件,法人の顧問業務に関わって10年以上という経験のある弁護士が対応いたします。
また交通事故については交通事故を専門に扱っている弁護士,役員・社員の皆様個人の離婚・相続問題についても専門に扱っている所内の弁護士が担当いたします。
役員・従業員からの個人からの相談も顧問契約内でご提供
当事務所におきましては従業員支援が従業員の労働生産性の向上や会社への定着につながるとの考えのもとに顧問先会社の役員・従業員の皆様からの相談も無料で対応させていただいております(労使問題等の会社と利害が対立する問題は除きます)。